行方6 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

ここの花火大会は板橋の花火と戸田の花火が一緒になって結構な量だった。華やかで鮮やかだった。
二人で何を話していたのだろう、きっとたわいもない話。いつの間にか私はFさんではなくたかしと呼んでいた。たかしも私を名前で呼ぶ。花火はクライマックスを迎え次はナイアガラというときに突然たかしはもう帰ろうと言い出した。
「遅くまでいるとまた電車が混むから、少し早いけど。」雨は降ったり止んだり不安定だった。今すぐざっと降ってきても不思議じゃない。ナイアガラに心を引かれながら来た道を戻り始めると背後でひときわ大きな音が聞こえた。驚いて上を見上げると突然たかしにキスをされた。長い長いキスだった。頭の先から足の先まで細胞が泡立つようだった。ババッババババとナイアガラの音も聞こえる。また続いてドーンドーンと響く。それは私の中でも同じことだった。閉じた目の中で閃光が走っていく。もう立っていられなくてしがみつくと彼のにおいがして完全にたかしに酔ってしまっていた。

足が鼻緒で擦れて痛かった。念のため、バンドエイドで予防していたのに。気が付くといつの間にか来た道をそれ、大きな通りに突き当たった。信号を渡りたかしはタクシーを拾った。頭はぼうっとしていてもう何も考えられないくらいドキドキしている。理性は皮膚一枚の薄さしか残っていなかった。たかしは運転手と花火の話を始める。「お姉さんは酔っちゃったのかな~」とドライバーにからかわれて、恥ずかしくて死にたいぐらいだった。もう、このままどうなってもいいや。このまま、酔ったままずっとこのままで漂っていたい。


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