行方5 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

さて待ちに待った花火大会の日、外は雨空だった。シトシトと降ったり止んだりを繰り返し、おまけにとんでもなく蒸していた。中止の発表はなかったので、とりあえず出かけることにした。傘を持って花火大会に行くなんて。
この間と同じようにホームで待ち合わせる。私の気合いの入った浴衣姿にたかしの目が輝くのが嬉しい。
「お姉さん粋だねぇ」
「お兄さんも浴衣にすればいいのに」
「俺着れないよ」
「花火やるのかなぁ、やらないのかなぁ」
「もしかしたら乗り換えの巣鴨で分かるかもしれない」
「そう、ずいぶん前に巣鴨でとっても美味しいたこ焼きやさんがあったんだよ,しょうゆ味の」
「それ喰いて~旨そう」
「屋台だからどうなっているかなぁ」
巣鴨で乗り換えると地下鉄は浴衣姿の人が多かった。たかしは相変わらずのタンクトップ。人の波に揺られながら離ればなれにならないようにたかしの腕が私の肩を抱く。そんなんじゃ心臓のドキドキが伝わっちゃうよ。久しぶりに誰かに抱き寄せられる感じがとても安心できた。
地下鉄を降りてからの道はよく分からなかったが人波に任せてブラブラとそぞろ歩く。時折ドーンドーンという花火の音がおなかに響いていい感じだ。これは花火をしますという合図だろう。あんまり暑かったので、たかしはビール、私はペットボトルのお茶を買った。
まだ雨もぱらついたりして、傘も差しながら最後はぬかるんだ土手を上っていく。慣れない下駄で滑りそうになる私をたかしはしっかり支えてくれた。
花火は久しぶりだった。最後に見たのは何年前だったか忘れるくらい。あれは綱島の方で友達の家の物置の上で見たのではなかったか。なぜ和也と一緒ではなかったんだろう。


行方6へ