閉鎖病棟へ入院[3]
パコさんが退院した日の真夜中、大きな声で目が覚めた。
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声は階下から聞こえてきていた。
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「あーっ!ああああぁーっ!」
と、叫ぶよう大きな声だ。
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パコさんが、洗面所の床にうづくまり両手を床に打ち付けて
全身で泣いていた。
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「あぁーっ!う、うっ、うっ。ああああーっ!ひどっ!うっうっ。
どうしてっ!あっ、あああああーっ!」
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これ以上大きな声は出ないだろうという、大きな叫び声だった。
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「うわぁーっ!ああああーっ!うっ、あっ、ああああああーっ!!」
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家の外にまで聞こえているのは間違いなかった。
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こんなパコさんは見たことがない。
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今まで僕に対して、感情的になって大声を出すようなことも無かった。
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「パコさん、どうした? 大丈夫?」
と声を掛けると、こちらに気づいて少しだけ顔を上げて
「うっ、うっ、うっ。ごめん・・・。もうちょっと・・・待ってて」
と言って、また泣き続けた。
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僕はパコさんの様子に圧倒されながら、ただ立ち尽くした。
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しばらく時間がたって、やっと泣き止むと
「・・・あのね、話したい事がある」
とパコさんが言って、リビングで話をはじめた。
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彼女の話は、延々と明け方まで続いた。
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・・・パコさんの話した内容は、散漫であまりよく覚えていない。
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「世界がとても病んでいて、みんなが生きづらい。死んでしまう人もたくさんいる」
それは、こうしたらきっと良くなる。こうしたら変わると思うのに・・・とか
彼女はずっと一人でしゃべり続けた。
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今日は会社を休むことにして、精神科の病院を探さなければ・・・
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それと、その間はパコさんのお母さんに見ていてもらおう。
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朝になって、いつものように朝食をとった後、パコさんは子供のシシコと遊んでいる。
「シシコの言う事を聞かないと」と言って、子供の後を付いて回っている。
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・・・やはり、言動がおかしい。
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ネットで近くて評判の良い精神科を探した。
どこも何週間も先まで予約でいっぱいで、病院を選ぶ余地はなく
20件以上問い合せして、やっと今日診てもらえる所を見つけた。
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病院の予約時間が近づくにつれ
どんどん様子がおかしくなっていった。
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動けないと言って階段の踊り場で
ずっとケタケタと全身で大笑いしている。
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時々急に泣き始めたり、誰かと会話しているような独り言も繰り返している。
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「あーっはっはっはっ(爆笑) ない、ない。やめてよー、もう!あっはっはっ(笑) 」
「うん、そう。そこ大事なんだって!(笑)ごめん、ごめん。
だって、わかんなかったんだもん。うっ、うっ(泣)」
「お母さんが泣いてるーっ!もう止めたい・・・うん。わかった。大丈夫、そうする」
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涙ぐむ義母を見て反応したり、こちらとの会話はある程度成立していたが
終始テンションの高さが目立って、情緒の不安定さが著しく・・・ひどい。
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・・・そんな時、パコさんの携帯が鳴った。
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登録の無い番号だったが出てみると
「・・・俺だけど」と男の声がした。
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「どなたでしょうか?」と返すと
「あの、パコさんは?」と聞いてきた。
パコさんに親しい男性がいる話は、あまり聞いたことが無かった。
「妻は電話に出られる状態じゃありません!」
と言って、そのまま電話を切った。
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子供を精神科の病院へ連れて行きたくはなかったが
パコさんががどうしても一緒に行くと言い張って
シシコと義母と4人で行くことになった。
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「絶対シシコと一緒に行く!だってシシコは生まれたばっかだもん!
おっぱい飲みたいって言ってるもん!ほらねっ」
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・・・シシコはパコさんに抱っこされ、とうに離乳しているのに
なぜか服の上からおっぱいを飲むマネをしていた。
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病院での状態もひどかった。
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席を立ったパコさんが戻らないので様子を見に行くと
パコさんは、トイレの床に寝っ転がって笑っていた。
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診察の間も、笑ったり泣いたりの繰り返しだった。
病院から戻って、シシコは入院中と同様に父母の所に預けた。
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夕食後には、パコさんに薬を飲むように言ったが、かたくなに嫌がったので
義母と二人で無理やり飲ませた。
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するとパコさんは、よほど体力を消耗していたのだろう。
電池が切れたように眠りについた。
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夜は、義母に彼女の隣に寝てもらって、自分は別室で眠ることにした。
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この状態では、パコさんを一人で居させるわけにはいかない。
入院が必要だ。
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明日は、入院先をなんとかしなければ・・・。
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・・・ パコさんは、いったいどうしたのだろう?
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・・・ パコさんは、治るのだろうか?
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