朝、夫が食べた焼き魚の骨を取りながら思った。
たぶん私、このままだと窒息する側になるなって。
今日会ったのは、「Mさん」。
47歳。外資のコンサルって言ってたけど、名刺はもらってない。
ホテルラウンジで会って、カフェラテを一杯ずつ。
「この時間に来れるって、働いてないってこと?」って言われたけど、
「働いてないわけじゃなくて、働かなくて済んでるって感じです」って返した。
Mさんは笑ってたけど、ほんとのところは多分どうでもよかったと思う。
ラウンジのあとは部屋。
鍵を開けたのは彼で、扉を押したのは私。
何も言わずに、ハンガーに上着をかけて、シャワーの順番を自然に譲った。
たぶんこういう流れは、彼も何度もやってる。
部屋に置かれた冷たい水のペットボトルを飲んでる時、
息子のことを少しだけ思い出した。
昨日の夜、「お母さんと結婚する」って言ってたなって。
そのあとMさんが出してきたのは、封筒。
無地で、何も書いてなかったけど、厚みはまあまああった。
私も何も言わずにそれをカバンに入れて、
「ありがとう」も「またね」も言わずに部屋を出た。