◆ある日の夜。洗濯機の前で、夫の声がした。



「ねえ、これ何?」


いつも通り、夕飯はワンオペ。

炒めたもやしの匂いが残るキッチンで、

わたしは小学生の宿題と格闘していた。


夫が、洗濯機の前から白い何かをひらひらさせてる。


…あ。


やばい、それ。





◆白い封筒。それは、パパにもらった“交通費”だった。



正確に言えば、

その日のランチ代と「いつもありがとう」のプチ手当て。


現金って重い。罪悪感的な意味で。


パパは優しいけど、“この関係”のバランス感覚だけはすごくシビア。

封筒に入れて、手渡しでくれる。

わたしはいつも、それを自分のパート用バッグにしまう。


…はずだったんだけど。


その日、急いでて。

封筒を間違えて夫のワイシャツの胸ポケットに突っ込んでたらしい。






◆「これ…なんかの謝礼?」「誰かに渡されたの?」



夫の質問は軽いけど、目は笑ってなかった。


「え、ああ、それ…前のパート先の送別会の時の…なんか、みんなで集めたやつかも?」


我ながら苦しい言い訳だったけど、

とっさに口から出たのは、そういう雑なセリフだった。


夫は「ふーん」と言って、それ以上追及しなかった。


でも、わかる。

彼の“察し”は、たぶんわたしの浮気以上に厄介。





つづくキョロキョロキョロキョロキョロキョロ