そのとき、視線の彼女が、

バッグを取って、スッと立ち上がった。


すれ違いざまに、目が合った。

一瞬だけ、ほんの1秒だけ――


でも、わたしのなかでは、

それが1時間にも感じた。


「奥さん、だったらどうする?」

「明日、LINEブロックされてたら、どうする?」


ワインの味が、急に鉄っぽくなった。





◆帰り道、パパは普通だった。



「送るよ」と言ってきたけど、

「バスで帰るね」と笑って断った。


彼は少し不思議そうだったけど、

「また連絡するね」と言ってキスしてきた。


でも、わたしはそのキスを

どこか現実味のない“演出”のように感じていた。





◆主婦の恋は、いつもスリルと隣り合わせ。



子どもを迎えに行って、

ランドセルの重さに文句を言われて、

冷蔵庫の中の豚コマ肉で現実に戻る。


でも、あの1秒の視線は、

今でも脳裏に焼き付いている。


これは恋なのか?それとも依存か?

わからないけど――


またきっと、わたしは行ってしまうんだろうな。

レストランという名の“非日常”へ。