朝、目を開けた瞬間から気分がどんよりしていた。窓の外は灰色の曇り空で、心の中までその色に染まるよう。コーヒーを淹れながら、今日の予定をぼんやり整理する。午前中の歯医者の予約が頭に重くのしかかる。数日前から疼いていた奥歯の痛みが少しマシになった気がしてたけど、歯医者ってだけで憂鬱だ。ドリルの音を想像するだけでゾッとするけど、行くしかない。
歯医者に着くと、待合室の消毒液の匂いが鼻をつく。診察台に座った瞬間、緊張で肩がこわばる。レントゲンを見た先生が「やっぱり神経を抜く必要があるね」と淡々と言う。心の中で「マジか…」とため息。痛みが落ち着いてたから少し期待してたのに、現実は厳しい。治療の説明を聞きながら、ちょっとブルーになりつつ、「これで痛みがなくなるなら」と自分を励ます。今日は抗生物質を処方されて、次回の予約を入れて終了。診察台の硬い感触とあの無機質な雰囲気、頭にこびりついて離れない。
歯医者を後にして、ポリタンに渡す結婚式の動画が入ったUSBスティックをバッグから確認。去年のあの華やかな結婚式、笑顔と感動が詰まった動画をようやく編集し終えた。渡せると思うと、ちょっとした達成感。ポリタンとは彼のオフィスの前で待ち合わせ。ビルのエントランスに着くと、ポリタンが先に待っていてくれて、ホッとする。「やっと渡せたよ!」とUSBを手渡すと、彼の弾けるような笑顔にこっちまで元気をもらう。でも、彼もバタバタしてたみたいで、ほとんど話す暇がなかった。結婚式の思い出をゆっくり語りたかったけど、「また今度な!」と軽く言葉を交わして別れた。ちょっと物足りなかったけど、USBを渡せただけよしとしよう。
ランチは時間がなくて、流行りのオレンジジューススタンドで済ませた。目の前でオレンジを絞ってくれるフレッシュなジュース、インスタでバズってるだけあって爽やかで美味しい。紙カップを手に街を歩きながら、ほんの少し気分が上向く。でも、「神経を抜く」って言葉が頭の片隅でチラついて、完全には晴れない。
午後は会社でチーム会議と上司との身上面談。チーム会議はプロジェクトの進捗確認のはずが、話があちこちに飛んで集中力との戦い。身上面談は最近の業務や今後の目標を話す時間だけど、履歴書を読み上げるような堅苦しさで、ちゃんと伝わってるのか少し不安になる。でも、上司から意外な言葉。「君、前任者より出社率高いし、デスクの周りのスタッフたちと和やかな雰囲気を作れてるね」。褒められて嬉しいけど、「前任者ってどんだけ荒んでたんだ?」と心の中で苦笑。前任のデスク、書類の山とコーヒーの染みでカオスだったもんな。スタッフたちと和やかにやれてるのは、みんなが気さくに話しかけてくれるおかげ。私一人じゃこんな雰囲気は作れなかった。
夜は同僚と居酒屋で飲み会。ざわざわした雰囲気が心地よくて、ビールが進むにつれてつい飲み過ぎてしまった。ほろ酔いで同僚と仕事やプライベートの話で盛り上がったけど、帰りの電車で上司と二人きりになったとき、つい本音がポロリ。前の部署での一年、仕事をもらえず、誰も出社してなくて、何をすればいいのかわからなかったあの無力感。あの時の虚しさが今でも胸に刺さる。上司は静かに聞いてくれて、「これから何ができるかが大事だよ」と慰めてくれた。でも、電車の窓に映る自分の顔を見ながら、情けない気持ちが胸に広がる。あの時の自分を思い出すと、心がチクッと疼く。
家に帰ってソファに倒れ込む。今日は歯医者の憂鬱、ポリタンとの短い時間、フレッシュなオレンジジュース、上司の言葉、飲み会の笑顔…いろんなことがあった。ポリタンとゆっくり話せなかったのは残念だけど、USBを渡せたのは一歩前進。神経を抜くのは気が重いけど、痛みから解放される第一歩だ。情けない自分もいるけど、明日の天気は晴れらしい。少しは心も軽くなるかな、なんて思いながら、目を閉じる。