朝、父親が「母親の傷パッドがなくなった」と言ってきたので、スギ薬局へお使いに出かけた。去年、階段で転んでできた傷がまだ完治せず、塗り薬を欠かせない日々が続いている。薬局の棚を眺めながら、母親の体が少しずつ弱っていく現実を思うと、胸が締め付けられる。家に帰ると、父親がせっせと洗濯や掃除をこなしている姿が目に入る。でも、母親はそれが気に入らないのか、父親がやったことをいちいち自分流にやり直す。洗濯物を畳み直したり、掃除機をかけ直したり。二人とも頑固で、まるで小さな主導権争いみたいだ。正直、こんなやり取りを目の当たりにするのは辛い。母親のボケが少しずつ進んでいるんじゃないかと、最近特に心配になる。些細な物忘れや、同じ話を繰り返すことが増えてきた気がする。まだ確信はないけれど、頭の片隅でいつもその不安がちらつく。
午後はもともと東京に帰ると両親に言ったけど、一人で小旅行に出る予定を立てていた。行き先は京丹波にあるフェアフィールド・バイ・マリオット。レンタカーを借りて、のんびりドライブしながら向かう。途中、スーパー銭湯に立ち寄ってさっぱり。髪を切ってもらい、ついでにマッサージまで受けてしまった。肩のコリがほぐれていくのを感じながら、まるで殿様になったような気分に浸る。こんな贅沢、普段ならなかなかできないから、今日は思い切って自分を甘やかしてみた。
銭湯を出て車を走らせると、30分もしないうちに京丹波の田舎らしい景色が広がってきた。関西の山々が柔らかく連なり、山桜がちらほらとピンクのアクセントを添えている。里山の風景はやっぱり心を落ち着けてくれる。東京の喧騒とは別世界だ。山の緑と、ところどころに残る春の花々に癒されながら、改めてこの辺りの景色が大好きだと実感した。運転中、ふと「こんな場所で暮らせたらいいな」なんて考えが頭をよぎるけど、仕事と介護の現実がそれを許してくれない。まぁ、夢想するだけでも悪くない。
宿に着く前に、ちょっと小腹が空いたので近くの道の駅に寄ってみた。地元の食材やお土産が並ぶ中、目にとまったのはチャコリみたいな微発砲のワイン。軽い泡と爽やかな味わいが好きで、つい手に取ってしまう。それに合わせて、チーズやナッツの小袋も購入。宿の部屋で早速グラスに注いでちびりちびり飲んでみた。うん、美味しい。窓の外には静かな田園風景が広がっていて、まるで時間が止まったみたい。一瞬、浮気旅行なんて洒落たことを想像してみたけど、すぐに笑ってしまった。仕事と介護に追われる毎日で、そんな好奇心もすっかり薄れてしまったらしい。歳のせいかな、なんて思いながら、もう一口ワインを味わう。悪くない気分だ。
フェアフィールドの部屋はシンプルだけど、マリオット系列だけあってベッドの寝心地が最高。ふかふかのシーツに体を預けると、疲れが一気に溶けていく気がする。本当はゆっくり読書でもして、一人の時間を満喫しようと思った。持ってきた小説をパラパラめくりながら、物語に浸るのも悪くないな、なんて想像していたけど、ぶっちゃけ、こんな快適なベッドだとすぐに寝落ちしそう。まぁ、それもそれでいいか。こんな風に自分だけの時間を過ごせる日って、最近じゃ貴重だから。明日のことは考えず、今日はこのまま心地よい眠りに身を任せようと思う。