※主人公と翔太くんは初対面の設定でお読みください
「いらっしゃいませー」
張りのある声が、私を迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、ご注文は」
若い…私と年が変わらないくらいの男の店員さん。
バイトさんかな?初めて見る顔だった。
「えーっと…ハンバーガーと、チキンナゲットと…」
「ご一緒にポテトは」
「あ、ポテトはいいですー」
「はいっ」
「あと、アイスティーください」
「かしこまりました!」
店員さんは、真剣な表情でレジを打っている。
やっぱり新入りさんなんだろうな。
普段接客してくれる店員さんに比べると、少しゆっくりだ。
「あの…お客様、すみませんっ」
「え?」
「2、3分お時間いただいてよろしいですか!?」
「え?…はい…」
「たいへん申し訳ありません、出来上がりましたらお席までお持ちします」
…出来上がってる商品、きれてしまってるのかな?
別に急がないからいいんだけど。
でも、あそこにナゲット一箱あるんじゃ…
…ま、いいか。
店員さんから番号札を受け取り、私は席につくとアイスティーを飲んだ。
「…お待たせいたしました!」
できるだけ急いで来てくれたのが、明らかに分かるくらいの勢いで、さっきの店員さんがナゲットを持ってきてくれた。
「それでは、ごゆっくり」
「………」
ごゆっくり、と言ったのに、店員さんはお盆を持って、私の隣に立ったままだった。
「あの…?」
「あっ、えっと…」
店員さんが、ちょっと慌てたように話し始めた。
「あの…ナゲット、もう出来ているのがあったんですけど、」
…知ってます、とは答えなかった。
「あったんですけど…揚げたてを食べてほしくて。あなたに」
店員さんの頬が、さっきより赤い。
「あの、俺、ここのバイト始めたばっかで…あなたに、なんかサービスできたらなって思っても、店長たちみたいに商品一個どーんってのはできなくて…」
さっきレジを打ってた時のように、真剣な顔で話している。
でも、私に、サービスって…それって…
私に好意をもってくれたって、こと…?
「あ…なんかすみませんっ、突然わけ分かんないことを」
「いいえ」
慌てた店員さんにつられたかのように、私も急にドキドキしてきた。
「あの…嬉しいです。ありがとうございます」
感謝の気持ちを伝えたくて、伝わるといいなと思いながら、私は店員さんに微笑んでみせた。
「また…来てもいいですか?あ、無理にサービスしてなんて、言いませんから」
「…お客様」
店員さんが、俯きながら私を呼んだ。
「申し訳ありませんが、2、3分お時間いただいてよろしいですか」
「…?」
店員さんは、腕時計を見て、次に私を見て、恥ずかしそうに笑う。
「あと2、3分で、俺、今日は上がりなんです」
だから、と言いかけた店員さんの言葉を遮って、思わず私は
「はい」
と返事をしていた。
「待ってます」
店員さんが、お盆を落としかけて、慌てて持ち直す。
「待ってますから」
店員さんは、ますます赤くなりながら、あは…と小さく笑うと
「それでは、もう少々お待ち下さい」
と、くるっと回れ右をして戻っていく。
私はドキドキしながら、揚げたてのナゲットをつまんだ。
さっき見た、真新しい名札には『結城』と書いてあった。
結城さんからのナゲットは、なんだかいつものより美味しく感じたのは、気のせいかな…。
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翔太くんくらいは、普通に接客してるんじゃないかと思ったんですが、純情そうに見せかけて、しっかりお客様をナンパしてるしw
ほんと怪しいです、このお店(笑)