桑原志織ピアノリサイタルに行ってきました。

ホールは、杉並公会堂でした。

 

荻窪音楽祭の一環「特別交流コンサート」と銘打たれたリサイタルでした。

 

プログラムは

 

ショパン 前奏曲第15番「雨だれ」

ショパン スケルツォ第3番

ショパン ワルツ第2番「華麗なるワルツ」

リスト  コンソレーション第3番

リスト  巡礼の年 第2年「イタリア」から「ダンテを読んで」

ショパン バラード第4番

ショパン ピアノ・ソナタ第3番

 

アンコールは、英雄ポロネーズでした。

 

予め発表されていた曲は「バラード第4番」と「ピアノ・ソナタ第3番」だけだったので「昨年12月の「凱旋コンサート」と同じプログラムかなぁ」と思っていました。

入り口で貰ったプログラムを見ると7曲中5曲は同じでしたが、2曲が入れ替わっています。

入れ替わった2曲がリスト、しかも「ダンテ・ソナタ」、期待で胸が膨らみました。

 

オープニングは、昨年12月の「凱旋コンサート」とは曲順が変わって「雨だれ」でした。

ショパンのタイトル付きの曲の中でもTop5に入る有名曲ですが、最初の2つ3つの音で食いっと桑原さんの世界に引き込まれます。

聴き慣れた「雨だれ」なんですが、特別変わったことをするわけでもなく、奇を衒うわけもなう、でも重量感のある深いタッチと重いタッチとは裏腹にまっすぐに伸びる音色に、あっという間に未了されてしまいました。

ここで一旦袖に引っ込みます。

 

再登場してスケルツォ。

スケルツォの本来の軽快さやユーモラスさはありません。

ずっしりと重量感のある演奏ですが、スピード感は失っておらず、重量加速度を味わうような演奏が心地よく響きました。

 

続けてワルツ。

今度は一転、羽が風に吹かれて中空を舞うように、軽やかでしなやかなワルツでした。

スケルツォとワルツのギャップ、桑原さんの魅力の一つだと思います。

 

袖に引っ込んだ後でリストを2曲続けて。

コンソレーションはプログラムに「ショパンのノクターンを思わせる」との解説通り、しめやかに、リストというとついて回る超絶技巧とは一線を画する、しめやかで、色彩感豊かな演奏でした。

 

続けて、拍手を受けずに「ダンテ・ソナタ」に。

天と地を引き裂き、地獄にいざなうような冒頭の和音が、ホール全体の色を変えるように、重々しく、キッパリと響きます。

ダンテの「神曲」、実は読んだことが無く、おおよそのあらすじしか知りませんが、音楽かだけでなく、作家や画家、様々な分野に影響与え、リストが受けた影響の大きさも感じられました。

 

桑原さん、愛知で、群馬で、静岡で、各地のオケとコンチェルトを共演していますが、首都圏ではまだショパンコンクールの興奮冷めやらぬリサイタル、といった趣を感じていました。

リストの2曲でリサイタルの印象が激変しました。

単に「ショパンコンクールで4位に入賞したお披露目」ではなく「ピアニスト桑原志織が繰り広げる世界」に変わったと思います。

衝撃的で、桑原さんの奥深さを存分に感じさせられた「ダンテ・ソナタ」でした。

ショパンコンクール以前はドイツ物やロシア物がメインで「ショパンをお客様の前で弾くのは10年振り」といっていましたが、リストの2曲はショパン以外に見せる桑原さんの才能の表出だったと思います。

「ショパンコンクール凱旋」がひと段落した後の桑原さんのレパートリーに期待が大きく膨らみました。

 

休憩を挟んで、晩年の傑作「バラード第4番」。

迫力満点、緊張感に満ちた、素晴らしいバラードでした。

ダンテ・ソナタも圧巻でしたが、バラード第4番も圧巻でした。

ショパンをこれだけ重厚に聴かせるピアニストは少ないかもしれないと思います。

桑原さんらしい深いタッチで、ズシリとお腹に響きながらも、停滞することなくスイスイと心地良く進む、相反する2面性が見事に両立し、調和したバラードでした。

 

そして、拍手を受けることなくソナタ第3番。

バラードの基調を引き継ぐ素晴らしいソナタでした。

第3楽章の抒情性豊かに、懐広い億湯がたっぷりとした響きは、ショパンコンクールの中継でも、昨年12月の凱旋コンサートでも、いたく感動させられましたが、今日も変わらぬスケールに、優しく包み込むような母性を感じさせられました。

桑原さんの深いタッチから導かれる包容力に感動でした。

 

アンコールの前にマイクを手に「地元杉並でのコンサートで、子供の頃から育てられた杉並公会堂」との挨拶でした。

プログラムによれば「荻窪音楽祭初登場は2011年高校生の時」とのことですから、思い入れの多いリサイタルだったと思います。

アンコールは英雄ポロネーズ。

堂々としたタッチで、音の奥行きの深さと、軽やかさと、スピード感と、いろんな要素が無理なく共存する、エンディングに相応しくホールが熱狂する英雄ポロネーズでした。

 

客席に挨拶をする桑原さん、前だけでなく、ステージ後の席にも、左右のバルコニー席にもきちんと正対して、全ての席のお客様に同じように、満面の笑顔にエクボを作りながら、ゆっくりとした仕草で、身体を90度折り曲げる、とても丁寧に登場のたびに、礼をして下さいました。

落ち着いた態度で大物の風格を漂わせ、これからの活躍が大いに期待されるリサイタルでした。