2004/2/29の朝日新聞に、
奈良県橿原市の西新堂遺跡で、古墳時代中期(5世紀後半)の河川跡から小枝を束状に縛った「ほうき」が出土した・・・(中略)
ほうきは、古くから産物の出来を占い、豊作を願う呪具とされ・・・(後略)
と掲載されていたのを見て、大層に言えば、アジアの文化の底流に共通して流れる中国文化の影響の強さを感じましたね。
海という自然を相手にする漁民、海上生活者は人智、人力ではどうにも出来ない天候、海況に漁獲や事によっては生死を左右されるので、勢い縁起を担いだり、神仏に頼ったりします。
最も大事な天候にかかわる神の「天后」や「洪聖」が信仰されているのはもっともだと思います。
私が船に乗り組んでいた頃は、レーダー無し、無線無しで船体が鉄でエンジンで進むものの、その他の部分では運任せの「風任せ、浪任せ」だったので、結構ゲン担ぎが残っていました。
例えば、飯に味噌汁を掛けたりすると、こっぴどく怒られてました。
「水船(浸水して沈みかけの船)になる」と言うんですなぁ。
必ず味噌汁に飯を入れるんです。
そうすると「満船(荷物を満載した景気の良い船)や」とゲン担ぎもエエとこです。
中国では「箒は邪気を払う」と言って近代的なビルの地鎮祭で箒で悪霊を払う儀式をしたりします。
ジャンクの上でも、悪風、雷、雨は妖怪が空の上を飛んでいるからだと、箒を逆さに立てて魔除けにします。
これには困ったことがあって、箒というのは悪い妖怪だけでなく、「好神」と呼ぶ良い精霊も追っ払ってしまうんですね。
陸上の場合は一旦皆んな追っ払っておいて、改めて「好神」にお越しいただくんだそうです。
好天や順風は「好神」が空を舞っているからなので、こんな時に箒を逆さに立てると張り倒されてしまいまっせ。
日本でも実際にしているのを見たことは無いんですが、客が早く帰る呪いに箒を逆さに立てるというのを聞いた事が有りますなぁ。
ウチの祖母は「なんっちゃ、ぞげなこっちゃぁ効かん!」と履物を裏返してヤイト(灸)をすえるんや、と言ってましたねぇ。
そんなことをしている時にお客が出てきたら大事(オオゴト)でっせ。
陸上では悪霊、妖怪は出番が減ったようですが、海の上ではまだまだのさばってるようで、航海しているとボラ等が跳ねて船に飛び込んで来る事が良くあるんですが、ジャンクに飛び込んだが最期、即座に頭と尻尾を切られてしまいます。
妖怪が魚に成り済ましてやって来たというんですね。
食事の知らせも「食飯(セッファン)」等と言葉でいうと妖怪が聞きつけてやってくるから、鈴を鳴らしたり、鍋を叩いて合図するんですわ。
これ以外にも、そらもう有象無象の妖怪共が仰山居るそうですが、キリがないのでの辺で止めます。
陸上の「地神」(九龍城砦にて)
陸上で「地神」が建物を守るとして祀られているように、船首には「船頭神」マストには「大囲桁神」、船尾には「船尾神」がいて船を守ってくれるとされています。
日本の船霊(フナダマ)さんに当たるものはマストの根元に置かれます。
ジャンクでは右舷を「大」、左舷を「小」と呼んで、右舷を神聖視します。
左舷が現世の人間の物であるのに対して、右舷は神と精霊、あの世の物の領分とされています。
「神口不得擺小便(神棚は小の側に設けたらイカン)」ので必ず右舷側に祀ります。
難儀なのは、悪神、怨霊の類も右舷から乗ってくるんですね。
「穢れ」に属するものは必ず左舷側に置かれます。
トイレは左舷、炊事場は右舷。
もっとも甚だしい「穢れ」とされる「死体」は当然左舷に置かれるのですが、一族の長老であるとか、尊敬、崇拝された人の場合は特に右舷に置いて敬意を表す事があるそうです。
子供、未婚の者、結婚していても子供の無い者、事故死した者は問答無用で左舷だそうです。
料理する魚の死骸はどう解釈するねん?と訊いたら「知らん!」と一撃の下に切って捨てられましたわ。
そんな訳で、漁労に従事しているときなどは別ですが、日常の乗り降りは必ず左舷から行ないます。
ジャンクに乗込むときは何が何でも必ず左舷からが礼儀で、生身の人間が右舷から乗込んだりすると、悪霊や災厄が一緒に乗込んでくると嫌います。
ジャンク内に、たとえ子供でも誰かがいれば、絶対に左舷からは乗せてくれません。
無理矢理に乗込もうとして、海に突き落とされても「礼儀知らずのアンタが悪い」と誰も同情などしてくれません。
万一乗せてくれた場合は、相手が寛大に「馬鹿で無知な外国人」と大目に見て、しかも非礼を辛抱するに足るメリットを期待できる場合だけです。
当然全てについて、その様な扱いを受ける事になりますから、何かにつけて金銭を要求されたり、はぐらかされたり、嘘をつきまくられたりする事になります。
誰も居ない時に右舷から乗ったのがバレルと、それはもぉ一大事、何をされても文句は言えません。
必ずとは言えないにしても、現代の客船などでも乗り降りは左舷からする場合が多いですし、飛行機、特に旅客機に至っては左舷側にしか登場口がありません。
まさか西欧が東洋の船乗りの風習を取り入れたとも思えませんし、この風習の起源は一体何処にから来ているのかを調べるのも面白いんでしょうが、それはもうちょっと歳を食らってからのお楽しみに置いとく事にしますわ。
蛇足ですが、飛行機も船の航海灯と同じに左翼に赤、右翼に緑の標識灯を付けているように、飛行機は船の慣習を多くの部分で受け継いでいます。
職名も、キャップテン、パーサー、ナビゲーターなど全く船と同じです。
ジャンクで生活する水上居民の系統にはには廣東、蛋家、潮州(鶴
)、客家等があります。
男の場合は見分けが付かないのですが、女性(特に年寄り)の場合は、帽子(笠)をかぶっていれば見分けられます。
ただし潮州(鶴
)は帽子をかぶらないことが多く、若い者はサンバイザーやアポロキャプも居ますねぇ。
以前は、決して他の系統の帽子をかぶる事は無かったんですが、最近はどうなんでしょう。
水上居民及び陸上人(岸上人、街上人)になった元水上居民の人々の間で、今も守られている風習は、魚の食べ方です。
切り身や余りにも小さい魚の場合は別に決まりは無いのですが、所謂「尾頭付き」の場合は決して魚をひっくり返しません。
上の身を食べると骨をそのままにして、骨の間から下側の身を食べるんですねぇ。
その器用な手並みには恐れ入ってしまいます。
私は知人の香港仔出身のユム君が魚を食べるのに見惚れてしまいました。
ご存知のように中国の箸は先が太いんです。
あれはもう、芸と言ってもいいように思います。
ひっくり返さない上に骨を崩しもしません。
見事に骨格標本みたいにしてしまうんですよ。
ひっくり返すのは船の転覆、骨を崩すのは破船に通じるというんですね。
ひょっとして、日本でも昔はそうしていたんでしょうかねぇ?
2004/03/05
喜愛香港-038 戎克(ジャンク)--03 愛しの戎克
喜愛香港-目次