妹からの段ボール箱
開けてみた。

開けられなかったのは、怖かったから。

私の、消えた記憶が入っているから。

『お姉ちゃんの、幸せだった頃の写真見つけたから。』

怖かった。
私の記憶は、暗い部屋で熱にうなされ、身体中にボツボツができていて、誰かが部屋の灯りをつけたところから始まっている。
前日までの思い出のない人達が、『家族』として突然存在していた。
恐ろしい父と、妹以外は見知らぬ人達だった。
しかし、皆昨日の続きのようにふるまっていた。
名前も顔も知らない人達。
嫌と言うほど、私を殴る『擂り粉木棒と、父の拳骨』
太ももの内側に触れる、父の肌のおぞましさと恐怖。口をきかない私に冷たい『お母さん』と言う人。遊ぶことを禁じられ、食事の後かたずけ、掃除、水汲みの日々。
ボロを着て学校に行き、読み書きも出来ず、いじめられた。先生も冷たかった。校庭でお漏らしもした。帰っては労働し、殴られ、恐怖の夜が来る。

『幸せだった頃の私?』

忘れられないどころか、『不幸』と言う感情を奪ってしまった人達と過ごした、長い年月。



開けて見た。

私を、とても可愛がってくれた祖父の写真、籐の乳母車に乗った私、女優のように美しい生母。

別世界の私の写真がたくさん。
『愛情に包まれている光景』が、そこにはあった。

恐怖はなかった。

私が去った後、いとおしそうに人形を手にする、淋しそうな祖父の写真。
伝わる優しさ。

もうこの世にはいない。
ごめんね、生きてる時に、、顔みせてあげられなくて。
自然に、そんな感情が溢れた。
この写真は、私に逢うために、づっと錆びた缶の中で待っていたのだ。
祖父の心は、づっと私に寄り添っていたのだと思えた。

逢えて良かった。

そして、抑え切れない怒りがわいた。
恐怖ではない。怒りだった。

こんな環境から、記憶を失う程の環境に連れ去り、幼い私をめちゃくちゃにした人達。
決して許さない。
『許さない私』を許せた。
子供は親を選べないのだ。
『恩知らず』のレッテルは、削除した。

私を痛め付けることで、あなた達は『幸せ』になれましたか?
そうは思えない。
未だに、人を責め争い自己満足で誤魔化してるのでは?

私は『やまい』を抱えているが、『幸せ』だと思えることが、たくさんある。
大切な、守るべき家族がいる。
大切な出逢い。
私が出逢った人々は、不思議と、素晴らしい人達ばかり。
『きれいごと』と言われても、譲らない人達ばかり。
私の中には『大好きな私』がたくさんいるし。

人を痛め付けても、自分が痛むだけだ。
痛まない人は可哀想。

祖父の写真は、私の宝にしよう。

いつか逢うまで。



とは言うものの、やはりダメージに苦しむ、不便な私でした。