*初めての方は、こちらをご覧下さい。
この日も、休日だというのに
早朝出掛ける俺の事なんて
妻はどうでもいいようだった。
休日出勤は日常茶飯事だったから
いちいち構ってられないのだろうけど
結婚してから一度だって
ねぎらいの言葉をかけられた記憶は無い。
ここ数年は特に酷かった。
話し掛けても誰もいないかのような対応。
あまりにも無視されるので
肩に手をかけて大声で呼びかけてみても
まるでオバケでも見るかのような視線。
いや…
既に俺、亡くなってるのかな?
あの自動車事故で命を落としたのに
気付いてないだけなのかな。
廃車になるほどの事故だったし
無傷って方がおかしい。
そうか、俺もういないんだ。
だったら辻褄が合うな。
でも、他の人とは普通に接してる。
なぜ妻にだけ認識されないのだろう。
無視される生活が何年も続き
既に心は疲弊しきっていた。
風に揺られて時々降り注ぐ
木漏れ日が まぶしかった。
梅雨の合間の晴れ空は
少し早い真夏の日差し。
時々吹き抜ける風が心地よかった。
木の根元に座り込んで地面を見つめた。
少し湿った枯れ葉でおおわれている。
この枝ぶりの良い木のある所へ来る途中
拾った太い枝が足元に転がってる。
ジーパンを脱いだ太ももに涙が落ちた。
次から次へと涙があふれて止まらなくなった。
最愛の人と結婚し
居心地の良い家に住み
子供達に囲まれて
楽しく過ごしてたはずなのに
なぜこんな事になったのか…
どんなに考えてもわからなかった。
何度も妻に聞いたけど返事はなかった。
そして
「なんでそんな事もわからないの?」
と言いたげな表情を見て
自分の愚かさにやっと気づいた。
「そうか。
俺は存在してはいけないんだ…」
既に覚悟は出来ていたけど、
なぜこうなったのかわからない自分に
嫌気がさした。
自分が悪いはずなのに
その理由にも気付けないなんて…
悲しさよりも自分自身への怒りや呆れ。
情けなくて涙が止まらなかった。
この時はまだ、妻が不倫をしてるなんて
不倫相手との子供を堕胎してたなんて
知るよしも無かった。
*プロフィールで、
「これまでの あらすじ」をチェック!