夜、うちの猫が膝の上に乗ってきて、ゴロゴロ喉を鳴らしていると、ふと思う。
この子はあと十年ちょっとで確実にいなくなる。でも私はまだもう少しは生きるかもしれない。
人間の平均寿命は八十数年。犬は十〜十五年、猫もだいたい同じ。
私たちから見れば、彼らの人生はあまりにも短い。
まるで早送りされた映画みたいに、生まれて、成長して、老いて、別れが来る。
それなのに、彼らはその短い時間を、一切の後悔なく全力で生きている。
昨日まで元気に走り回っていた子が、朝起きたらもう動かなくなっていた——
そんな話はペットを飼っている人なら一度は耳にする。
人間だったら「まだやりたいことがあったのに」と嘆く年齢で、彼らは静かに息を引き取る。
残された私たちは、胸が張り裂けそうになるのに、亡くなった当の本人は、きっと「充分楽しかったよ」と言っている気がする。
不思議なのは、彼らの短さが、逆に私たちに「今この瞬間」を教えてくれることだ。犬は尻尾を振って「今日が一番幸せだ!」と叫び、猫は窓辺で日向ぼっこしながら「今が完璧」と満足げに目を細める。
未来の不安も、過去の後悔も、彼らの頭にはほとんどない。
私たち人間は、明日死ぬかもしれないと知ったらパニックになるのに、彼らは、明日があるかどうかなんて考えずに、今日を生ききる。だからこそ、ペロッと手を舐められたとき、ゴロッと喉を鳴らされたとき、胸が締めつけられる。
この温もりは、永遠じゃない。いつか必ず終わる。
その「いつか」が、案外近いかもしれない。でもそれを知っているからこそ、今この一秒が輝く。犬猫の命は短い。
でもだからこそ、彼らは嘘をつかない。
愛情を隠さない。怒りをいつまでも引きずらない。
お腹が空いたら空いたと言うし、寂しければ寄ってくる。
人間みたいに「いつか言おう」「いつかやろう」と先延ばしにしない。
私たちは彼らを見て、命の長さじゃなくて、濃さみたいなものを教えられる。
八十年の薄っぺらい人生より、十二年の、毎日を全力で燃やし尽くした人生の方が、ずっと眩しい。
もうすぐ年を取るうちの猫を見ながら思う。
お前は私より先に逝く。
それは悲しい。すごく悲しい。
でもお前がくれた、この「今を生きる」という感覚は、私が死ぬまで消えない。ありがとう。
そして、ごめんね。
私の方がずっと長く生きるのに、お前に教えてもらうことばかりで。短い命だからこそ、彼らは美しい。
私たちは長い命を持て余して、ときどきそれを忘れてしまうけど、
膝の上で眠る小さな体温が、静かに思い出させてくれる。今、この瞬間を、ちゃんと生きよう。
お前がそうしてきたように。ドン獣医師