ご近所猫ハート君からの聞きがき
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〝すべすべタイルの道〟のおしまいにある大きいゴミ箱の下のすきまを〝隠れ場所〟にきめて少したったとき。
その〝隠れ場所〟のすぐわきで、〝人の道〟とそのむこうの〝自動車の道〟とその先に見える学校の植え込みを眺めながら、木やたくさんの草や、の向こうの、暗くて見えないけれど、〝学校のプールの下の集会所〟のことを考えて、少し、少しだけなんだけれど、ぼんやりしてしまったとき・・
ぬうっと、目の前に、犬の鼻さきが、目の前に、見えた。そのとき、自分がどんな顔をしたのか、どんな声をだしたのか、覚えていないよ。でもきっと、怖くて、声も出なかったんじゃないかとは思っているよ。
それで、とっさに後ずさりしたんだと思う、今、おもえば・・・。
それで、気がついたら、〝隠れ場所〟にきめていた、大きいゴミ箱の下のすきまの中にはいっていた。
犬は鼻をすきまにつっこんで、クンクンしていたけれど、大きいんだから、絶対にこのすきまには入れない。
だって、子ども猫だった自分の、十倍か、二十倍かもある大きな犬だったからね。
・・・と、その時の自分は、そのぐらい大きい犬だったと思った。
飼い主が「小さい猫を追いかけちゃだめ」。
犬はすぐに〝人の道〟に戻っていったけれど、そのとき、「またね」といった。
・・・と、そういったとその時の自分は、思った。
犬がいって、ほっとして、〝隠れ場所〟を決めておいてほんとうによかったと思った。でも「またね」を思うと〝隠れ場所〟からすぐに出る気にはならなかった。
大きいゴミ箱の下のすきまから〝人の道〟をみると、たくさんの人の歩いている足だけがが見える。自転車の車輪が回っているのも見える。〝人の道〟の向うの〝自動車の道〟には、停まっていたりすごい速さで走っている自動車の車輪が見える。
〝人の道〟や〝自動車の道〟は見ていると、なにもかもが速すぎて目が回りそうだった。
それで〝すべすべタイルの道〟の方を見た。
大きいゴミ箱の正面の下のすきまから見上げると、このゴミ箱の何倍もあるような ガラスの大きな窓 が見えた。
そのガラス窓が〝人の道〟に直角で。
もっともっと大きいガラス窓(というよりはガラスの壁のように自分には見える)が〝人の道〟と平行して立っている。
それで、〝人の道〟から入る〝すべすべタイルの道〟をせばめるように、これもまた大きいガラスのドアが斜め向きに見える。
〝すべすべタイルの道〟を通るとき、今までは、自分の高さで、周りを見ていただけ。
〝すべすべタイルの道〟が終わって〝人の道〟にぶつかるところがこんなふうだったんだとはじめてわかった。
それで〝隠れ場所の〟大きいゴミ箱の下から出て、このガラスの壁や窓やドアの中をのぞいてみたくなった少しは大きくなったけれどまだまだの子ども猫の自分は、ついさっきまでの怖さを、もう忘れて〝隠れ場所〟の大きいゴミ箱の下から這いでてきた。
まだまだ小さい子ども猫から
少し大きくなったころの はなし・・
中野 新井薬師
ダイニングバー
どもあもく