古い友人から合宿に誘われたのだ。
学生時代、ゼミやサークルで何度となく合宿した。そのつながりでだろう。合宿など久しく行っていない。

「合宿ねえ」

僕は消極的だった。なにをいまさらな感じがある。
第一、ゼミ合宿をした頃から長い年月がたっている。かつてのように合宿できる自信がない。アスレチック・ジムで遊び馴れた子供も大人になると丸太の渡り方もターザンも忘れてしまう道理だ。
合宿所のセミナールームを借りて、ガブリエル・タルドをめくりながら苺のタルトをガブリと食うのは、どう見ても酒を飲まない若僧のやることだ。畳の上で輪になって膝を抱えて体育座りをするのも気が進まない。円陣は組みたくない。
しかし僕は畳の上で膝を抱える女子は好きだ。

「な、今度の日曜日。考えてくれよ」

あまり気乗りしないまま生返事をした。日曜日か。翌日は月曜じゃないか。月曜は仕事だ。まさか、月曜まで帰れないなんてことないだろうな。


…………と、このへんで一度目が覚めた。夢だったと気づいた。尿意を催している。トイレに立つ。
まだ眠いので、布団に入った途端に寝てしまった。


携帯電話が鳴った。出ると、むかしの友人だった。

「ね、今度の日曜日、合宿しようよ」

こんな誘いをついこないだも聞いた気がする。まったく、合宿したがるやつが多いな。

「どこへ行くの?」

「山のほう」

山ではどこかわからない。日本中、山だらけではないか。

「車出すからさ」

それを聞いて少し気が変わった。やはり車で行くに限る。
行く人数は4人。2~3人増えるかもしれないが、全員乗れるから大丈夫だという。ワンボックスカーでも出すのかなと思う。
日程をきくと、日曜日の明け方出発、現地に昼前に到着、色々あって合宿所に一泊し、月曜の午後帰ってくるという。
それでは月曜は完全に出勤できなくなる。
でも僕は行く気になっていた。

「よし、行こう」

「お。じゃ、人数に入れとくぜ」

「途中、眠かったり疲れたりしたら運転代わるよ」

安請け合いした途端、玄関に来訪者あり。だれかと思ったら、先にゼミ合宿に誘った友人だ。まずい。同じ日曜日にダブルブッキングしちゃった。こいつのほうは断りたい。

「実はさ…」

他の友人とも合宿に行く予定があると打ち明けると、その友人は床に長く寝そべった。
居座るつもりらしい。

「そんなやつらの合宿なんか、忘れちゃえよ。俺らのとこに来いよ」

「でもなあ…」

「どうせ青臭い連中だろ? 大人の集まりって感じじゃないぜ」

表が騒がしい。
友人と僕は玄関に出た。わが家だと思ったら、旅館だった。玄関にゴムボールが転がっていた。友人がそれを蹴飛ばす。ゴムボールは壁に当たって跳ね返った。
ボールを戸外へ出すべく、玄関の引き戸を開けた。
水が流れ込んできた。

「わっ、洪水だ」

「大水だ」

みんな騒いでいる。こいつのせいだったのか。庭全体が水だらけで床下浸水のレベル。
さらに道へ出ても水に浸されていた。ここ、どこだろう。沖縄、とだれかが言った。沖縄の雨はすごいからなと言い合ってる。なるほど、沖縄か。でも肌寒いのはどういうわけだろう。沖縄って寒いのか。
路上で子供たちが橇に乗って遊んでいた。こんな寒い大水の日は橇遊びに限るね。スイスイ滑る子供は微笑ましい。
道端に朽ちかけた橇がひとつあり、僕はそれに乗った。壊れかけの橇はよく滑った。駅の切符売り場の小暗いところまで滑って、また戻ったりした。


…………というところで再び目が覚めた。トイレに立って、また寝床に戻って寝た。夢の続き。


僕は車で合宿に行く友人たちと連れ立って出かけた。車はキャンピングカーで、6人も乗るにはお誂え向きだ。女の子も混じってた。
合宿所についた。腹が減っている。朝4時に起きて、なにも食べていない。もうお昼だ。

「めしにしようよ」

提案すると、みんな賛成した。
食卓にヒジキや野菜サラダ、豆腐などが運ばれてきた。が肝心のご飯と味噌汁が来ない。箸だけ先に置かれる。
「まだか?」とか「おうい」とか言っている。
空腹は頂点に達しつつある。