設問1
1 原告適格は、「法律上の利益を有する者」(行政事件訴訟法(以下略)9条1項)に認められる。ここに「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により、自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。そして、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個個人の個別的利益としても保護すべきとの趣旨と解されるときは、かかる利益も法律上保護された利益に含まれる。
2 では、Xらに、かかる利益は認められるか。Xらは処分の名宛人以外の者なので、9条2項に基づき検討する。
(1)法48条1項但書は、例外許可につき定めるところ、かかる例外許可は別表第二(い)項以外の建築物を建築するときに、なされるものである。そして、同項10号は、政令で定めるものを除外しているところ、法施行令130条の5第1号は、一定以上の規模の自動車車庫につき定めている。
一方、法48条14項は、利害関係人の生命・健康・財産(法1条参照)を保護するため、例外許可をするに当たり利害関係人の意見聴取するべき旨を定めている。
以上に鑑みれば、法は、一定以上の規模の自動車車庫の建築につき例外許可を出すことで、生命・健康・財産に不利益を被るおそれのある者を利害関係人として、意見聴取するべきこととして、かかる利益を保護する趣旨といえる。
(2)では、Xらは、かかる利益を有するか。
ア 本件では、X1は、本件自動車車庫ときわめて近くの隣接した場所に居住している。そして、本件スーパー銭湯が営業開始すると、X1は、年中無休で休みなく、朝10時から午後12時の夜中にわたって、自動車のエンジン音・ドアの開閉音という大きな騒音にさらされることになる。また、ライトグレアや排気ガスにより、X1は目や肺に重大な健康被害を受けるおそれもある。さらに、車の交通量が増え交通事故が多発すれば、X1が事故にに巻き込まれるおそれもある。そして、X1の健康は、かけがえのないものである。
したがって、法は、X1の生命・健康を個別的利益として保護する趣旨といえる。・
イ 一方、X2は、本件自動車車庫から若干離れたところに居住する者ではある。
しかし、多数の自動車が自宅前を通行し、大きな騒音や大量の排気ガスを出すことにより、X2の住居の平穏や肺が害されるおそれがある。また、交通量が増え交通事故が多発することで、X2も事故に巻き込まれるおそれもある。
したがって、法は、X2の生命・健康を個別的利益として保護する趣旨といえる。
(3)よって、Xらは「法律上の利益を有する者」に当たるので、原告適格が認められる。
設問2
第1 手続上のかし
1 法82条がじょせき事由を定めた趣旨は、議事に個人的な利害関係を有する者を排除することで、議事の公正を図ることにある。以上にかんがみれば、決議結果が変わらなかったとしても、議事の公正を害するおそれがあったのであれば、当該議決には手続上のかしがあるといえる。
2 本件では、確かに、Bを除外してもなお議決成立に必要な過半数の委員の賛成があり、決議結果に変わりがなかったといえる。
しかし、Bは本件例外許可を申請したAの代表取締役の実弟という、きわめて密接な血縁関係にある者であり、「三親等以内の親族」に当たる。そして、Bが議事に加わったことで、他の委員に根回し等をし、Aの代表取締役に有利になるよう働きかけたおそれがある。
したがって、Bの参加により、議事の公正が害されるおそれがあったといえる。
3 よって、建築審査会の同意にかかる議決には、手続上のかしがあるので、違法である。
第2 裁量権の範囲の逸脱・濫用
1 Y1には、本件例外許可をするについて裁量がある。∵専門的知識が必要。
2 本件要綱は、本件例外許可をするに際しての基準となるものである。したがって、Y1市長が本件要綱の内容を考慮せず、または考慮すべきでない事項を過大に考慮して本件例外許可をしたときは、裁量権の逸脱・濫用として違法となる。
3 本件では、本件要綱には、利害関係者の意見を十分尊重すべきとの規定がある(本件要綱第7の2)。そして、利害関係者たるXらは、本件自動車車庫の完成により、自己の生命・健康に重大な不利益が生じることにつき、公聴会にて陳述した。にもかかわらず、Y1市長はその陳述内容につき検証したり、建築審査会に伝えたりして活用することもなく、漫然と本件例外許可をしたものである。
4 したがって、Y1市長には、本件要綱につき考慮不尽があり、裁量権の逸脱・濫用があるといえるので、違法である。
設問3
1 先行処分の違法を後行処分の取消訴訟にて主張することは、原則許されない。なぜなら、先行処分の取消訴訟の出訴期間(14条)の実質的潜脱となり、出訴期間により法的安定性を図ろうとした法の趣旨に反するからである。
もっとも、①先行処分と後行処分が一連の手続を構成しており、②両処分が同一の法的効果の発生を目指すといえるときは、例外的に、先行処分の違法を後行処分の取消訴訟にて主張できると解する。
2(1)本件では、Aは、本件例外許可を受けなければ本件確認を受けることができない。つまり、本件例外許可は、本件確認の不可欠の前提といえる。
したがって、本件例外許可と本件確認は、一連の手続といえる(①)。
(2)そして、本件例外許可も本件確認も、Aが本件自動車車庫を適法に建築できるという、同一の法的効果の発生を目指すものである(②)。
3 したがって、Xらは、本件確認の取消訴訟にて本件例外許可の違法事由を主張することができる。
設問4
第1 「銭湯」と本件スーパー銭湯
1 裁量の有無
「建築基準関係規定に適合する」か否かは、専門的知識が必要なので、Y2には本件確認につき裁量がある。
2 裁量の逸脱・濫用
考慮不尽・他事考慮があれば、裁量権の逸脱・濫用として違法。
3 本件
「銭湯」が例外的に第一種低層住居専用地域内に建築可能なのは、公衆衛生のため。
↓しかし
時代の変化とともに、公衆衛生を図る必要性は減少してきた(浴室保有率も95%)。むしろ、本件スーパー銭湯は、飲食コーナーやマッサージコーナー等があることからすれば、衛生目的ではなく娯楽目的。
↓∴
Y2は、公衆衛生の需要や本件スーパー銭湯の目的を考慮せず、本件確認をしているので、考慮不尽があり、裁量権の逸脱乱用として違法である。
第2 入浴料金
本件スーパー銭湯の方が、「銭湯」よりも割高。これは、本件スーパー銭湯にはいろいろなコーナーがあり、娯楽目的だから。
にもかかわらず、Y2が本件確認をしたことには、考慮不尽があり、裁量権の逸脱・乱用として違法。
(☆☆実質途中答案☆☆)
<反省点>
・設問1の原告適格にて、利益の重要性につき独立して論じることを失念した。
・設問1を、書きすぎた(3ページ弱)。
・本件要綱を、Y1の裁量権の逸脱・濫用の判断としてどのように用いるのか、よくわからなかった。