もうね、アホかと。



自分の欲求のためなら他人を蹴落としても心痛まない卑しく最低なクズ人間であって、さらには他人は利用するだけ利用して用のないときには特に積極的に接することのない僕なんかにチョコレートをあげるなんかね。もうホント、アホかと。


とは思うものの、やはり本心はこの人生初の本命チョコにドキドキファンタジック。もしかしたら物陰で僕の様子をうかがっているかも…そう思った僕は周りを見回してみる…。ざわ・・・ざわ・・・誰も僕の異常なテンションに気づいていな…!?


い、いた!僕の様子を聞き耳立ててクスクス笑いながら見ているスネーク的存在。そう、先ほど廊下で肩をぶつけて僕の横を無理に通って行ったあの二人組だった。そういやその彼女はその二人組と仲が良かったな…多分彼女が僕の下駄箱の中にチョコレートを入れることをしっていて、彼女の一世一代の大勝負を実況生中継するために僕の様子をコソコソとうかがっているのでしょう。放映料としてギャラをくれ。観戦するなら金をくれ。



興奮した僕がまずとった行動。とりあえず言いふらしまくった、自慢のようなものを…いやはっきり言いましょう。自慢しました。世間でも低辺に属する最低最悪のクズ人間をを証明した瞬間でした。



誰か僕に恋愛学を教えておくれ。


それをリアルに懇願するほど恋愛に関しては疎い僕。好きな人に「nebeは誰の彼女にもならないでね!」とか言ってるのを本気にしちゃったりしてる僕ですよ。だってあの子に言われたんですよ!あんな奥手な(あくまで想像上の話)彼女に!萌え萌えですよ。今ではただれた恋愛遍歴を経て腐女子になったっぽいですが。そんなクソ野郎が恋物語とか書くとかね、こんな都合のいいこたぁありませんよ。なんというクズ人間。


そんなクズ人間がすることなんてクズ以下なんです。そのチョコレートの包みに入った手紙に書かれていたメールアドレスにメールすらしない僕。なんてメールをしはじめればいいのかわからずどばっと一週間。とりあえず友達にそれに関してイジラレまくった。でもいいメッセージはなかなか思い浮かばなかった。彼女のメールアドレスはアドレス帳に即登録、そこまではよかった。新規メール作成画面になると頭の中が真っ白になった。まだメッセージすら考えていないのに、仮に送信したときに送れなかったらどうする?思わせぶりな態度だけとっといて実はドッキリだったらどうする?ここに書いてあるメールアドレスがひと文字くらい間違っているのではないか?そんな根も葉もない疑問ばかりを頭に浮かべ、肝心なメッセージのことをなかなか考えられず一週間。とりあえず僕だけの力では解決できないことはわかっている。



「それは早く返事するべきですよ!ウチの友達も本命チョコあげたんだけど、なかなか返事がなくて毎日なかなか寝付けないとか言ってましたよ!」


この悩みを部活に持って帰った僕。後輩の女子はこう言う。それはそうだと思う。早く何かしらメールを送らないといけないとは思っている。でもまずなんて送るべきなの?とりあえずそのアドレスに僕だよnebeだよーっていうことを伝えればなんとかなるもんなの?ねぇ教えて!教えて恋の神様!


「っていうかnebe先輩がとられちゃうよ!Mちゃん!」

「……。」


このときなぜかMさんは怒ったような顔をして黙ったままだった。わけがわからないと僕はその時思った。しかし後々、そのMさんの猛アタックを受ける僕だったのだが…その話はまた今度ーむ。


返事が考えられず、一日、また一日、さらに一日とすごしている間に三月も目前に迫っていた。さすがにこれ以上彼女を待たせるわけにはいかない。ウジウジしたところで何かが変わるわけではない。そう思った僕は、が出てしまったので、当たり障りもなく、可か不可とも書かない内容でメールすることにしたのです。


「返事が遅れてごめんねあせるこういうの初めてだから恥ずかしくてなかなか返事出せなかったんだ…
こないだのおいしかったよ☆ありがとうアップ


絵文字もがんばって入れたし、かわいらしい文章だから彼女からも反応いいだろう。そう思って僕はマックで昼飯をとりながら友達と談笑しながら彼女の返事を待っていました。友達もその返信が気になるということなのでとりあえず最初の返事が来るまでは帰らない。そういってくれたものの、昼時から夕方へと時間は過ぎ、さらには外が真っ暗になってこれ以上の長居はもうなんか気まずいとかそんなレベルではない、もうさっきから店員に睨みつけられるたびに何かしら頼んでしのいでいるものの、毎回毎回100円くらいの安物でもう迷惑極まりない客へと変貌していたのでしたが、まぁそれも仕方のないことなのです。これは僕の人生でも初めての経験。これくらいの障害があって当然のことなのです。そしてすっかり周りの客が仕事帰りで夕飯代りにマックを利用しようというリーマンで埋め尽くされていったそのとき、やっと返事が返ってきたのです。


「そう。それはよかった。」


え…あれ?何この味気ない返信は。こんなに長い時間待たされた挙句このさっぱりとした文字列。絵文字どころか顔文字、記号すら「。」だけというなんともさみしい。恋する女子高生の打つメール画面だとは到底思えない、何か重々しさすら感じられる…


「あー、お前とうとうあきれられたな。最低だな。最低のクズ人間だな。」


バレンタインデー当日はアゲアゲな感じでテンションが最高にハイってやつだったけれども、日が過ぎていくにつれ返事はどうしよう…うわぁ考えが浮かばないよ><という見えないプレッシャーを感じるようになってからはどんどんとテンションが下がっていき、毎日胃に痛みを感じるようになって、そして先ほどの返信メールでEカードで負けて会長に怒られる利根川のような心持ちになってしまったのである。あんなに胃を痛めたのに、結果これです。クズ人間のレッテルを貼られるオチ。同情するならジアスターゼをくれ。


ホワイトデーにお返しはするものの、さめてしまわれたようなので三倍返しなどせず、0.7倍返しくらいにしておきました。そのことについて彼女からのコメント(メール)はいただけませんでした。




「そんなこともあったな。」

「結局一言も話さなかったのなw」


僕が知りたかったのはなぜ彼女が僕のことを好きになったのか。一言も話さなかったのに…、ということは実際はなく、一年生の時に一度か二度授業中に話を交わしたことがある。まぁ実際、プリント見せてとかそんなところだろうけど。まぁそれだけで好きになったというのは理由にならないし、ただのこじつけだろう。もっと何か決定的な何か…しかしそれはわからない。彼女にしか…


そのファミレス、我が校のたまり場なり。


僕らの学校から最寄り駅までの間にあるそのファミレスは、僕らの学校の生徒の格好のえさ場となっていた。友達と来るのもよし、恋人同士で来るのもよし、先生がご褒美でおごるって時でもよし。とにかく便利だったこのファミレスにももうなかなかこれないだろうということなのか、その日は僕の学校の生徒でぼったがえしていた。


「おい、nebe。」


聞き覚えのあるその声。振り返ると先ほどの二人組と一緒にここに来ていた彼女の姿だった。しかしnebeとは…呼び捨て?しかもなんか雰囲気怖いし…。僕の前を通り過ぎようとした瞬間でした。醜い顔をしながら僕の顔の前に右手中指をピンコ立ちさせ「死ね!」と言い捨て、彼女たちは店を出て行った。


はじめはポカーンとしていた僕だったが、我に返るとはらわたが煮えくりかえりそうなくらい怒りがこみ上げてきまして、思い切りテーブルをたたいて「ふざけんなよてめー!てめーが勝手にさめたんだろがコラ!」と叫び…


ながら目を覚ました僕。どうやらファミレスでの出来事は夢だったようだ。多分友達も最後の日くらい空気読んでその話題には触れてこないだろうし、そんな都合よく彼女がいるわけがない。しかし…あの日、あの時の出来事はまぎれもなく事実だった。一生心に刻まれているであろう大切な思い出。そしたら急に彼女のことが気になった。学生鞄の中に入っていた卒業文集を取り出し、彼女の項目を探した。


「現在テニスプレイヤーの彼と熱愛中♥ 彼がスマッシュを決めるたびにトキメいてます」

幸せそうな彼女の近況。それを見て僕はなぜだか安心して、もう一度瞼を閉じて眠りについた。