絵のうまい彼は美術部に入っていた。


部活動では女の子の肖像画を描いていた。
かわいらしい女の子の絵だった。

彼の家はとても貧乏だった。
その頃主流だったスーパーファミコンも持っていなければ、家にビデオデッキすらなかったという。
電話は昔ながらの黒電話で、月の小遣いはなんと500円。
弁当の中身はご飯に梅干だけだった。

そんな家庭の経済状況だったため、小さい頃におもちゃなんて買ってもらえなかったことはなかった。
チラシの裏と鉛筆を渡されて、暇なときはいつもそれで絵を描いていた。

唯一親から買ってもらったのが色鉛筆だったと言う。
絵を描くのが好きな彼はとっても喜んで、その頃から絵に躍動感が生まれたという。

彼の家に一度だけ遊びに行ったことがあった。
彼の部屋には簡単な机とタンスと、あといままで描いてきた絵が飾ってあった。
その中でも女の子の絵は、彼が部活で描いていたものしかなかった。
しかしその絵は、他の絵とは比にならないほど丁寧に描きこまれたものだった。
その魅力的な女の子は私をひきつけた。
手に触れてみると、彼の努力を感じることが出来た。
いままで蓄積された経験が、ここまでの絵を彼に描かせているのだろう。

しかしその絵にも一箇所だけ問題があった。
顔の部分がまるで糊を塗ったような硬いしわができていたのだ。
トイレから帰ってきた彼に、私は何も聞くことは出来なかった。