田所先生がこの学校に来て2週間。アレは下校しているときのことだった。
俺は委員会で遅くまで学校に残っていた。一緒に帰る友達は先に帰ってしまい、一緒の委員会でも特に仲のいい友達を作らなかったので一人で帰ることにしたのである。委員会で使っていた教室の鍵をしめ、その鍵を職員室へ返しに行ったときにはもうほとんどの先生は帰ってがらんとした雰囲気だった。一瞬田所先生を目で探したけど、目に見えるのはたくさん山積みにされた教材の上から覗くはげ頭ひとつだけだったので僕はそそくさと帰ることにした。もう日も暮れかけ、外は薄暗かった。
なんとなく怖い雰囲気をかもしだす学校から早く遠ざかるように、小走りで学校の外へと飛び出した。そこにはいとしの田所先生と、うちのクラスの担任の大須賀が一緒に歩いていた。学校の中でもよく二人でいるのは見かけたけれど、それは同じ体育専門の先生として、そして同じ教室を受け持つ先生として仕事の関係上一緒にいるもんだと思っていた。
しかし、学校の外へ出てしまえばそんなの関係ない。先生と先生という関係以上の何かなのかもしれないと考え始めた。たしか田所先生はこの学校出身だったと聞いたことがある。田所先生が中学生の頃、もうすでに大須賀はこの学校の教師だったのかもしれない。だとしたら、その頃から先生と生徒以上の関係になっていて、この学校に実習に来たのもその関係かもしれないと考え始めた。後方50メートルからその二人の様子を見ていると、心なしか田所先生が無邪気に笑っているように見える。学校の中では見せない笑顔を、大須賀に見せている。俺は遠くからそれを見ている。なんだかとっても欝な気分になってきた。大須賀は好きな先生だったけれど、田所先生といちゃいちゃしているところは見たくねぇ!そう思った。俺は現実から逃れるように、いつもの帰り道とは違う慣れていない道のアスファルトを踏みしめた。
あの二人はとっても怪しい。
そう思った俺は次の日から学校では大須賀の後をつけるようにした。なるべくしゃべっている言葉が聞こえるくらい、でもつけていることには気づかれないなんともいえない距離感を保ちつつ、俺は大須賀の後をつけた。授業が終わって下校時間になっても、こっそりあとをつけることにした。放課後、そして終業の時間まで。
田所先生がこの学校に来て三週間したある日。大須賀は終業後、田所先生を体育館に呼び出していた。
なんのために呼び出したのか知りたくなった。仕事のことだったら、いくらでも話す時間はあった。認めたくはないけれど、もし彼氏彼女の関係だったとしたら仕事のあとにでも食事をしながら話すことだってできるはず。それじゃあなんのために呼び出したのか。全く検討がつかないが、ひとつだけ人の道としてはずれていることだけは思いつくことはできた。しかしそれが本当だとしても俺は・・・・・・
外はすっかり薄暗く、学校に残っているのは俺と田所先生と大須賀の三人だけとなった。もちろん俺以外は俺がまだ学校に残っていることに気づいていない。大須賀のあとをこっそりつけつつ、体育館に入っていくのを確認した俺。さすがに体育館の中には隠れるところはないので、重く閉ざされた扉の外から中の様子を伺うことに決めた。
「せ、先生。あの体育館に呼び出してなんの用ですか?」
田所先生の声が聞こえた。どこか不安を感じながらも口を開いているような、そんな声色だった。
「田所・・・俺たち実習生を世話する先生っていうのは、最終的な評価をつけた書類を作ってお前の大学へ送らなきゃならないんだよ。」
・・・?それと体育館へ呼び出した理由はなんなのだろうか・・・全く話は見えてこない・・・
「だいたい教師ってのも大変なんだよ。生徒に勉強を教えるだけじゃない。いじめを解決したり、PTAにぺこぺこしてたり、校長のご機嫌とったり。仕事だって毎日家に持ち帰る。とてもプライベートの時間なんてないわけ。」
だからそれとこれはどういった関係があるってんだ!っていうかコレって彼氏彼女同士の会話じゃないよね。そりゃよかったー。
「だからよー田所、お前ちょっと体貸せ。」
「え、ちょ・・・いやです!」
「低い評価つけられてもいいのか!田所ー!」
ただ事じゃないと思った俺は思わず体育館独特のその重い扉を思い切り開けた。薄暗いの体育館の中で逃げ惑う田所先生と、俺の登場で固まった大須賀と、大須賀のズボンの上からでもはっきりわかる大須賀ジュニアがそこにはいた。田所先生は俺の体に抱きついた。大須賀は顔を隠してそそくさと体育館から出て行った。もう顔隠しても遅いのに・・・・・・
「怖かった・・・怖かったよぉ・・・」
涙を流しながら田所先生は俺の体をぎゅっと抱きしめた。俺はこういったとき何を言ってあげていいかわからなかったから、とりあえずこの前の体育のときのように俺が田所先生の頭をなでなでしてあげた。俺の制服は田所先生の涙でしっとりしはじめた。
次の日から大須賀の様子は明らかにおかしかった。俺が近くをすれ違うだけで何かとても警戒しているようなポーズをとっていた。バカだろ・・・とか思いながらも大須賀のことはほっといた。別に校長にちくったりはする気がなかったからだ。田所先生のことを考えて。
その田所先生はいたって普通だった。いままでどおり授業をこなし、いままでどおりクラスのホームルームを指揮っていた。ただその日以来、俺と田所先生の仲はとてもよくなった。クラスの男子からはうらやましがられ、女子からはまた変な目で見始めていた。だけど俺は幸せだった。田所先生と友達のように話せることが何よりうれしかった。
そして教育実習最終日。帰りのホームルームではなんとなくそっけない感じで大須賀が今日で田所先生も最後だということを聞かされ、事前に用意していた寄せ書きを先生にあげたり、これからもがんばって先生になってくださいねということを伝えて、田所先生とお別れとなった。ただ俺は違った。このあとちゃんと気持ちを言葉にして田所先生に伝えることを決めていた。
放課後、体育館裏に田所先生を呼び出していた。どきどきした気持ちはそれほどなかった。なぜならこの前の体育館で抱きしめられたことのほうがよっぽどどきどきしていたからだ。しかし顔はこわばっていたと思う。先生はいつもの薄いピンクのジャージを着てやってきた。
「話って何?土橋君。」
「せ、先生って付き合ってる人とかっている?」
「んー今はいないかな。」
「じゃ、じゃあ俺とつきあっ」
一世一代の大勝負!フラグはもう何本もたっているはずなんだ。残すところはこの告白だけなんだ。成功をしんじてるぜ俺ェェェェッ!!
「はぁ?ガキがナマいってんじゃねーよ。」
あれ?あれれ?何この豹変。
「この間の件はすげー感謝してる。めちゃくちゃ感謝してる。だからって勘違いしてるんじゃないよ。だっておまえ、あの時は誰だってお前に抱きついてると思うよ。もう誰かにこの傷をいやしてほしー!って。でもね、だからって好きになっちゃったとかそういうことはない。あるかもしれないけど、お前のようなガキんちょには興味ない。」
お、終わってしまった。中学最後の俺の恋。終わってしまった。何もかも。どれもこれもなー兄貴のせいだよ。なんでAVなんてもんを小さい頃から俺に見せ付けるだろうね~。一人で楽しむものでしょアレは。そんなんだから俺はこいったガキ扱いしかされないんだよ。トホホ・・・。
そう思っていると、俺に興味のないはずの先生は話を続けた。
「私決めてるんだ~この中学の先生になるって。で、年下の彼と職場恋愛して結婚する。でも仕事はやめないんだ~。」
彼女は最後に笑顔を見せてくれた。興味のないガキに笑顔を見せる。そのときはまだその意味がわかっていなかった。
7年後。俺は中学の時の教室に戻っていた。今度は授業を受ける方ではなく、教える方として・・・
そのクラスの担任の先生がみんなに俺のことを紹介してくれた。薄いピンク色のジャージを着た彼女は、再び俺にあの時の笑顔を見せてくれた。
俺は委員会で遅くまで学校に残っていた。一緒に帰る友達は先に帰ってしまい、一緒の委員会でも特に仲のいい友達を作らなかったので一人で帰ることにしたのである。委員会で使っていた教室の鍵をしめ、その鍵を職員室へ返しに行ったときにはもうほとんどの先生は帰ってがらんとした雰囲気だった。一瞬田所先生を目で探したけど、目に見えるのはたくさん山積みにされた教材の上から覗くはげ頭ひとつだけだったので僕はそそくさと帰ることにした。もう日も暮れかけ、外は薄暗かった。
なんとなく怖い雰囲気をかもしだす学校から早く遠ざかるように、小走りで学校の外へと飛び出した。そこにはいとしの田所先生と、うちのクラスの担任の大須賀が一緒に歩いていた。学校の中でもよく二人でいるのは見かけたけれど、それは同じ体育専門の先生として、そして同じ教室を受け持つ先生として仕事の関係上一緒にいるもんだと思っていた。
しかし、学校の外へ出てしまえばそんなの関係ない。先生と先生という関係以上の何かなのかもしれないと考え始めた。たしか田所先生はこの学校出身だったと聞いたことがある。田所先生が中学生の頃、もうすでに大須賀はこの学校の教師だったのかもしれない。だとしたら、その頃から先生と生徒以上の関係になっていて、この学校に実習に来たのもその関係かもしれないと考え始めた。後方50メートルからその二人の様子を見ていると、心なしか田所先生が無邪気に笑っているように見える。学校の中では見せない笑顔を、大須賀に見せている。俺は遠くからそれを見ている。なんだかとっても欝な気分になってきた。大須賀は好きな先生だったけれど、田所先生といちゃいちゃしているところは見たくねぇ!そう思った。俺は現実から逃れるように、いつもの帰り道とは違う慣れていない道のアスファルトを踏みしめた。
あの二人はとっても怪しい。
そう思った俺は次の日から学校では大須賀の後をつけるようにした。なるべくしゃべっている言葉が聞こえるくらい、でもつけていることには気づかれないなんともいえない距離感を保ちつつ、俺は大須賀の後をつけた。授業が終わって下校時間になっても、こっそりあとをつけることにした。放課後、そして終業の時間まで。
田所先生がこの学校に来て三週間したある日。大須賀は終業後、田所先生を体育館に呼び出していた。
なんのために呼び出したのか知りたくなった。仕事のことだったら、いくらでも話す時間はあった。認めたくはないけれど、もし彼氏彼女の関係だったとしたら仕事のあとにでも食事をしながら話すことだってできるはず。それじゃあなんのために呼び出したのか。全く検討がつかないが、ひとつだけ人の道としてはずれていることだけは思いつくことはできた。しかしそれが本当だとしても俺は・・・・・・
外はすっかり薄暗く、学校に残っているのは俺と田所先生と大須賀の三人だけとなった。もちろん俺以外は俺がまだ学校に残っていることに気づいていない。大須賀のあとをこっそりつけつつ、体育館に入っていくのを確認した俺。さすがに体育館の中には隠れるところはないので、重く閉ざされた扉の外から中の様子を伺うことに決めた。
「せ、先生。あの体育館に呼び出してなんの用ですか?」
田所先生の声が聞こえた。どこか不安を感じながらも口を開いているような、そんな声色だった。
「田所・・・俺たち実習生を世話する先生っていうのは、最終的な評価をつけた書類を作ってお前の大学へ送らなきゃならないんだよ。」
・・・?それと体育館へ呼び出した理由はなんなのだろうか・・・全く話は見えてこない・・・
「だいたい教師ってのも大変なんだよ。生徒に勉強を教えるだけじゃない。いじめを解決したり、PTAにぺこぺこしてたり、校長のご機嫌とったり。仕事だって毎日家に持ち帰る。とてもプライベートの時間なんてないわけ。」
だからそれとこれはどういった関係があるってんだ!っていうかコレって彼氏彼女同士の会話じゃないよね。そりゃよかったー。
「だからよー田所、お前ちょっと体貸せ。」
「え、ちょ・・・いやです!」
「低い評価つけられてもいいのか!田所ー!」
ただ事じゃないと思った俺は思わず体育館独特のその重い扉を思い切り開けた。薄暗いの体育館の中で逃げ惑う田所先生と、俺の登場で固まった大須賀と、大須賀のズボンの上からでもはっきりわかる大須賀ジュニアがそこにはいた。田所先生は俺の体に抱きついた。大須賀は顔を隠してそそくさと体育館から出て行った。もう顔隠しても遅いのに・・・・・・
「怖かった・・・怖かったよぉ・・・」
涙を流しながら田所先生は俺の体をぎゅっと抱きしめた。俺はこういったとき何を言ってあげていいかわからなかったから、とりあえずこの前の体育のときのように俺が田所先生の頭をなでなでしてあげた。俺の制服は田所先生の涙でしっとりしはじめた。
次の日から大須賀の様子は明らかにおかしかった。俺が近くをすれ違うだけで何かとても警戒しているようなポーズをとっていた。バカだろ・・・とか思いながらも大須賀のことはほっといた。別に校長にちくったりはする気がなかったからだ。田所先生のことを考えて。
その田所先生はいたって普通だった。いままでどおり授業をこなし、いままでどおりクラスのホームルームを指揮っていた。ただその日以来、俺と田所先生の仲はとてもよくなった。クラスの男子からはうらやましがられ、女子からはまた変な目で見始めていた。だけど俺は幸せだった。田所先生と友達のように話せることが何よりうれしかった。
そして教育実習最終日。帰りのホームルームではなんとなくそっけない感じで大須賀が今日で田所先生も最後だということを聞かされ、事前に用意していた寄せ書きを先生にあげたり、これからもがんばって先生になってくださいねということを伝えて、田所先生とお別れとなった。ただ俺は違った。このあとちゃんと気持ちを言葉にして田所先生に伝えることを決めていた。
放課後、体育館裏に田所先生を呼び出していた。どきどきした気持ちはそれほどなかった。なぜならこの前の体育館で抱きしめられたことのほうがよっぽどどきどきしていたからだ。しかし顔はこわばっていたと思う。先生はいつもの薄いピンクのジャージを着てやってきた。
「話って何?土橋君。」
「せ、先生って付き合ってる人とかっている?」
「んー今はいないかな。」
「じゃ、じゃあ俺とつきあっ」
一世一代の大勝負!フラグはもう何本もたっているはずなんだ。残すところはこの告白だけなんだ。成功をしんじてるぜ俺ェェェェッ!!
「はぁ?ガキがナマいってんじゃねーよ。」
あれ?あれれ?何この豹変。
「この間の件はすげー感謝してる。めちゃくちゃ感謝してる。だからって勘違いしてるんじゃないよ。だっておまえ、あの時は誰だってお前に抱きついてると思うよ。もう誰かにこの傷をいやしてほしー!って。でもね、だからって好きになっちゃったとかそういうことはない。あるかもしれないけど、お前のようなガキんちょには興味ない。」
お、終わってしまった。中学最後の俺の恋。終わってしまった。何もかも。どれもこれもなー兄貴のせいだよ。なんでAVなんてもんを小さい頃から俺に見せ付けるだろうね~。一人で楽しむものでしょアレは。そんなんだから俺はこいったガキ扱いしかされないんだよ。トホホ・・・。
そう思っていると、俺に興味のないはずの先生は話を続けた。
「私決めてるんだ~この中学の先生になるって。で、年下の彼と職場恋愛して結婚する。でも仕事はやめないんだ~。」
彼女は最後に笑顔を見せてくれた。興味のないガキに笑顔を見せる。そのときはまだその意味がわかっていなかった。
7年後。俺は中学の時の教室に戻っていた。今度は授業を受ける方ではなく、教える方として・・・
そのクラスの担任の先生がみんなに俺のことを紹介してくれた。薄いピンク色のジャージを着た彼女は、再び俺にあの時の笑顔を見せてくれた。