特定支出控除を紹介する記事でよく出てくるのが、スーツ代が控除対象になり得るというものです。ただ実際には、スーツ代等を控除対象額として計上できるのが65万円までなのに対して、特定支出控除を受けるには給与所得控除の半分を上回る特定支出が必要です。

ところが多くの所得階層では、65万円ではこの必要額を満たせません。他方で、普通の生活をしているとスーツ代以外に特定支出控除になり得る支出はそんなにありません。なので、特定支出控除は使えない制度だといわれているわけです。

しかし、単身赴任で特定支出控除対象になる帰宅旅費を相当額積める状況なら、話は別です。帰宅旅費だけで給与所得控除の半額を満たせる場合はもちろん、帰宅旅費に加えてあと数万円から10万円程度特定支出を積み増すことで給与所得控除の半額を突破できる状況なら、向こう数年分のスーツをあわせて購入して、特定支出控除を適用するのは合理的な選択になります。

私の場合、毎年春夏用と秋冬用を各1着をリプレイスする(1着あたりの耐用年数は約5年で、春夏と秋冬のそれぞれ5着のスーツを月曜日から金曜日までの5日間でローテする)というペースでここ10年きています。つまり毎年スーツを2着買うわけですが、令和5年は、計算上は帰宅旅費だけで給与所得控除の半額を突破できそうです。せっかくなので、例年より多くスーツを買って、これを控除対象に含めようと思っています。

ただ、65万円ギリギリを狙うつもりはありません。持っているスーツの数ばかり増えても仕方ないですし、体型も緩やかに変わっていくので、やはり毎年耐用年数が来た古いものから順にリプレイスしていくのが合理的だと思うからです。というわけで、今年は3年分、合計6着のスーツを購入して確定申告に持ち込むのが目標です。

しかしここで、もう1つ関門があります。それは、雇用主の証明です。

単身赴任の帰宅旅費は、単身赴任の事実を証明してもらえばいいので、そんなに問題はありません。ところがスーツ代は、それが仕事のために着用することが求められている衣服であることを証明してもらう必要があります。

 

しかし今時、たとえば就業規則でスーツを着なければならない、などということが厳格に定められている職場は稀です。クールビズは普通ですし、何ならカジュアルデーがある場合もあります。強制力のある形でスーツで勤務しなければならないことになっている職場というのは、存外少ないのです。

ただ、この証明は、就業規則で着用が定められるところまで行っていなくても、慣習としてスーツの着用が求められていれば、出してよいことになっています(細かいことは国税庁のQ&Aを参照してください)。なので、いわゆるホワイトカラーの事務職であったり、顧客対応上スーツ着用が望ましいとされているような職種であれば、証明が得られる可能性は十分にあります。また、会社の規模やお堅さにもよるでしょうが、スーツが仕事用の衣類であることは明らかではあるので、細かいことを言わずに証明を出してくれる会社もあるかもしれません。

私はどうだったかというと、かなりお堅い部類の職場だったのか、あるいは証明を出す権限のある人が慎重だったのか、スーツについて証明を出せるかどうかの結論を得るのに1ヶ月以上かかりました。窓口になっている部署の人に聞くと、本社まで照会が上がって、それでも先例がなかったので外部の専門家に意見を聞いて、ようやくOKが出たということでした。

大きな組織の弊害みたいな話ですが、それだけでなく驚いたのは、決して単身赴任が少ない組織ではないのに、スーツ代も込みで特定支出控除にチャレンジしようとした先例がなかったということでした。たしかにマニアックな制度ですし、活用度合いは低いですが、それにしても先例がないことを理由にこんなに時間がかかるとは思いませんでした。

ただ、こんなに時間がかかるとなると、たとえば確定申告直前になって突然、スーツの領収書を人事部門に持ち込んで証明書を出してくれるように頼んでも、確定申告に間に合わないおそれがあります。それに、その段階になってスーツ代に関する証明書を出せませんなどと言われてしまったら、この機を狙って普段よりたくさんスーツを買う意味はありません。

なので私は、実際にスーツを買う前に、年が明けてすぐに人事部門にそういう証明が出るかどうか確認したのですが、早めに確認をしておいてよかったと思ったのでした。実際のところ、スーツって仕事と冠婚葬祭以外に着ていくことは皆無なので、こういう控除が使えるなら使い倒すしかありません。これで今年は、心置きなく(?)スーツを買うことができるので、これもあわせて確定申告します。

 


この記事は税に関する内容を扱っていますが、内容は無保証です。紹介している制度や具体的な控除額などは改正されることがあります。当ブログの情報により判断を誤ったとしても筆者は責任を負えませんので、予めご了承ください。