この間、大学院を卒業した。

正確に言うと、卒業式に出た。


私の履修の仕方の都合上、

正式に卒業が確定するのは次の5月まで待たなくちゃならないのだ。


早く日本に帰りたかった私のために

授業の履修案をあれこれ模索してくれた学部長や

1学期前倒しで出たい卒業式への手配の色々を進めてくれたアドバイザーや

くじけそうになった、

いいや、

何度もくじけた論文の執筆を見てくれた教授たち。


それ以上に、日々私を支えてくれたオハナチャン達や

ぐうたらな娘を遠い海のあっちから心配し続け、支え続けた家族。


事あるごとに、素敵な現象でグルリ私を覆っては

日常ってなんて美しいものかしら、と思わせ続けてくれた土地。


色んな人や

色んなものに

ありがとうのかたまりをぶつけたい。


卒業式、ワイキキシェルをライトが煌々と照らし始めて

皆で祝辞や激励の言葉に聞き入った。

日本では、式典など睡眠の儀式だったのに。


愛情がいっぱい詰まったたくさんのレイの甘い香りに包まれて

思い出すのはハワイでのたくさんのこと。

思い出どうしが繋がって

ほんの少し、切ない感じ。


肩にジンワリジンワリ感じるレイの重みも

ステージを歩く卒業生に送る拍手で赤くなった手のひらも

自分の出番を待つソワソワな感覚も

全部が、とっても特別だ。


とっても特別な場所で

勉強ができて幸せだったな。


ここを離れる時

感じる気持ちはどんなだろう。




物足りないのはハワイのクリスマス。

やっぱりこの時期はきりっとした空気にあたたかいコート、

そんなものに包まれてツリーが見たい。


一年の終わりを感じ始めるけれども

本格的な新年の訪れを実感するにはまだちょっと早いこの時期。

だけど、クリスマスの雰囲気は一足早く

一年を振り返らせたりする。

一年だけじゃなく、過去のクリスマスの周辺も。


クリスマスに悪い思い出なんてないのに

クリスマスソングに包まれるとたちまち切ない気持になっちゃうのはなぜだろう。


楽しかった思い出とか

たくさんあった嬉しい過去の日のどこかに戻りたいっていう感情に満たされて、

とりあえずこのクリスマスの雰囲気から逃げたくなったりもする。


だけどよく考えると

私の今が、戻りたいと思える過去の日々によって成り立っているなんて

なんて素敵なことかしら。


行きつきたい将来の切れ端を過去に見つけたとしても

過ぎてしまった日々だと焦ることはないのだ。

きっともう答えは知ってる。

戻ろうとしないのは

別の理由があるからなのだ。

なんだか調子のいい日は

「アハハ」って笑う出来事が

起り続けたりするんだ


そんな笑顔を

他人任せじゃなく

自分で発信してみたら


アハハな日が、少し続いたりもする


それは、なかなかいいことだ


私が日本で働いていた時、

頼りない娘の身を案じた母が占いに行ってた。


その一年後にハワイに来た。

何となく、流れに身を任せてスタートしてはみたものの、

卒業する気なんてなく、留学の予定期間の1年を終えたら

中退して帰国しようと思っていた大学院。


それが今、事実上最後の学期を迎えて

卒業式の案内も手元にある。


当初の予定を大幅に変更して

今こうしていられるのは

まぎれもなく、たくさんの人のおかげなのだ。


とっくに自立しているはずの娘に

未だ援助を続けることになった親や

応援してくれている日本の友達

ハワイで一緒に笑って過ごしてくれる

大切な人たち。

だから、毎日頑張れる。


それはとってもわかっているのに

時には理性をあざけるように

不安ばかりに満たされちゃう。


留学生活の集大成になるべき論文の出来に

私は自分で心底がっかりして

この程度の私の能力ではもう乗り越えられないと

今学期、何度も泣いた。


毎朝、論文が書けないっていう不安に駆られて目を覚まして

すぐに泣いた。

車の中、お気に入りのビタミンソングだって重荷に感じた。


「泣く暇があるなら書き直せ」って

友達からの言葉が身にしみる。

半分、私が逃げてることなんて

お見通し。


それでもある日、不安を口にしたくなって

母に弱音を吐きたくなって

電話を手にして迷ってた


私の生っちょろい泣きごとは

どれほど母を悲しくさせちゃうのかしら。

今まで、どんなに辛くても

母にだけは吐かなかった弱音。


教授からのメールはそんなときに届く。


読む価値のある論文になってきていると書いてある。

このまま進めて、問題ないと書いてある。

心配せずに、やり遂げろと書いてある。


そして、電話をしまった。


努力し続けなくちゃいけないことに変わりはないけれど

不安の殻は脱ぎ捨てられる。


いつもそう。本当にいつもそう。

押しつぶされそうになった時

必ず誰かが現れる。


背中を押したり

引っ張ってくれたり

ただ、横にいてくれる。

例えば、海を渡った文字でだって。


そんな時、母が聞いてきた占い師の言葉を思い出す。


「困った時には、必ず助けてくれる人がやってくる子」


お母さん、その人はね、ホンモノかもよ。

そして私もね、人をさりげなく助けられる人に

なりたいよ。

私の周りのみんなのように

なりたいな。










ずっとずっと、私を優しく包んでくれた大切な毛布を

手放した。


少し寒くて、無防備で、

切ない。


わがままを言って

ごめんね。