アンコール中の扉 | コンサートホールのお話など

コンサートホールのお話など

レセプショニストとして働いているコンサートホールでのお話や、クラシック音楽やとりとめのないことなどを綴っています。

久しぶりに、演奏会を開くテーマで、今日はアンコール中の客席扉の扱いについてお話したいと思います。


客席の扉は、2重になっていることが殆どですが、今回はその前提でお話しますね。客席と直に繋がっている方の扉は「内扉(うちとびら)」・ロビーや通路側が「外扉(そととびら)」という風に呼んでいます。


まずは、待機のタイミングです。通常、プログラムの1番最後の演奏曲目(ここまでが本編といいます)があと少しで終わりそうな感じになると、自分が担当して開ける扉にスタンバイします。この時、ドアストッパーで止める扉の場合はきちんと置いてある場所と数を確認しましょう。


ちょっとしたことですが、いざ開けようと思って「あれ?どこ?」「わっ、片方がない!」などと困らないために。手に持ってスタンバイするぐらいでちょうどいかもしれません。


そして本編がが終了し、拍手が起こると、外扉を空ける担当者は、急いで扉を開けます。もちろん、外側だけです。内側の扉まで開けてしまわないように注意しましょう。


終演後に全てを空けていると、お客さまの流れに間に合わないので準備する意味があります。


何故「急いで」開けるのかというと、拍手が止んでしまうと、当然会場が静まりかえり、演奏が始まってしまいますので、客席に扉を開ける音が響いてしまいます。ですので、拍手の音に紛れて急いで開ける必要がありますし、1人で何ヶ所かを担当する場合も、拍手のうちに数をこなさなければなりませんので、急ぐ必要があります。(アンコールがなければすぐにお客様がドッと出てこられます。)


この時、通常はアンコールの演奏は内扉側だけが閉まっているという状態になっています。ですが、外扉側も臨機応変に、会場やその扉の場所に応じて、客席に何か影響がありそうな場合はちょっとした工夫も必要です。



例えば、エントランスから外からの雑音が入ってくる位置の扉だけ、アンコールがあった場合はすぐにまた全閉、拍手で再び外扉だけ開けるというこまめな繰り返しを行う、あるいは全閉するまでもないが、半分だけ閉めるなど。


外からというのは、近所にお店があって賑やかだったり、噴水があって水の音がするなど色々と考えられます。


また、大ホールと小ホールがすぐ近い場合、終演や休憩が重なりそうな時間は他方のお客さまが一度に出て来られるので、大きな雑音が生じます。特に気遣いが必要です。



次に終演すると、引き続き内扉も開けます。中の係員だけでは手が足りないはずです。その時、外で待機していると、どのタイミングで開けてよいのか、少し難しいかもしれません。正式には、終演のアナウンスや客席の電気がつくまでは開けてはなりません。


モニターが見える位置でない限りは、よく耳を澄ましてカーテンコールが本当にもうないか、客席の状態を見極めます。


だいたいがざわついたり、お客様が一斉に椅子を離れた時のバタバタとする音で気がついたり、あるいは廊下の照明が何かしら明るくなるという目安があるかもしれません。


ひとたび本編が終了しますと、カーテンコール・アンコールの間中は、少し孤独に待っていなくてはなりません。疲れもピークにさしかかっている頃でしょう。しかし、そんな時でもキレイに待っていましょう。壁にもたれかかったり、疲れた足を靴から緩めたりしている場合ではありません。


いつ、お客様が出てこられるかわからないからです。たとえアンコールの演奏が始まってしまっても、ギリギリまで聴いて、電車の時間の都合など様々な理由で途中退席されることが非常に多いからです。


そういう事態に備えて、私ならカーテンコール中は扉の取っ手に片方の手のひらを付け、お客様の出て来られる気配でさっと扉を開けて差し上げられる体勢にして待ちます。曲が始まってしまえば、手は添えなくても構いませんが、すぐに対応できるように気をつけて立っていましょう。


そしていざお客様が出てこられると、お客様が通られるのに必要な分だけそっと扉を開けて差し上げ、すぐに閉めます。まだ終演していない会場に気遣い、多少は仕方ない部分もありますが、少しでも外の光が入ったり、雑音が聞こえるということで雰囲気を台無しにしないように気をくばりながら。


ぞろぞろと後が続く場合は「開けて差し上げますからね~。ここから出てね~(勝手に開けないでね~)」というオーラを出して、ジェスチャーも加え、少しだけ開けた状態でお通しします。


何故なら、お客様は左右の扉の順番を気にすることなく押せば、上手く開かないのでだいたいが強引に押し開けられ、大きな雑音が出てしまいますし、スタッフが共通の認識で決めている扉の順番が入れ替われば、後で業務上ミスにつながりかねません。


そもそもお客様が最後になって煩わしい想いをなさり、重い扉に指や足を挟まれるなどの危険の回避もできます。この時、大丈夫そうなら小声で「ありがとうございました。」と扉を押さえつつ軽くお辞儀をするか、あるいは目礼でも構いません。ロビーのスタッフがきちんとお見送りはしますから、大丈夫です。


ちょっと細かくて、一度や二度演奏会でたまたま扉担当をするだけの方には、そこまでこだわることもないかと思いますが、一応ご参考までに、私たちの仕事はこういう風に行っています。


演奏会に行かれる方には、アンコール中は外側だけが開いているんだな~というちょっとした豆知識でした。