途中退席に一考 | コンサートホールのお話など

コンサートホールのお話など

レセプショニストとして働いているコンサートホールでのお話や、クラシック音楽やとりとめのないことなどを綴っています。

これまでにも何度か、開演中に退席される方は、演奏中でも大丈夫ですよ、もし、お気になるようでしたら、お近くのレセプショニストにお声をかけて頂き、扉付近で鑑賞頂くこともできますよ、なんていうお話を書いてきました。


今日は、演奏会を開く、スタッフの方の立場から見た対応についてです。先日、仕事でこのような場面で、ちょっと考えさせられることがありました。


客席の外側の扉を担当していました時に、後半が開演しようとしている刹那、ロビーのソファーに腰掛けているお客様のお姿がありました。


「間もなく開演致しますが、中にお入りになりませんか?」

と、お尋ねしました。体調がお悪いとか、誰かからの連絡(携帯)を待っているとか、何らかの事情があることが察せられます。


すると、「途中で出なくてはならないので…」と、ソファーから遠くにあるモニターから聴こえる音で鑑賞をなさるおつもりでした。仮にモニターをご覧になるならば、そちらの対応としては画面の前に椅子をご用意できます。


「大丈夫ですよ。」

実はその日、入場者数が半数ほどで、相当の空席がある確信もあり、そうでなくても念の為ご案内は「レセプショニストの、少し固い椅子ですが、およろしければそちらで…。」とし、是非に中にお入り頂きたく、お勧めしたのです。すると、お客様のお顔がふわっと明るくなりました。


後半開演直前の緊張感のあるなか、そのお客様をご案内して、中の係員に事情を話しました。通常でしたら「途中で出られるのですって。」だけで、阿吽の呼吸で事情を察知・対応するようなことでもあります。


しかしながら、念の為に事情に加え、「レセプショニストの椅子か後方の空席で対応ください。」と引き継いだのです。(この日は特段静まり返る公演の内容と、あくまで半数は空席なのに加え、途中入場のタイミングはもうないのでその席は空いたままである、イコールたまたま空席対応可能な状況であって、普段から必ずしもそうではないことを付け加えておきます。)


私はその時、ロビーのお客様を一刻も早くゼロにし、扉やお化粧室を確認し、客席内のスタッフとコンタクトをとって、「開演OKな状態であること」を整え、進行に伝える役割です。扉を閉めると同時に最後のそのお客様に扉の前でお座り頂ければOKという状況でした。



ところが、開演後予定通り途中で出てこられたお客様は非常に恐縮なさっていて「やっぱり目立ちました…」と、少し迷惑げでした。後ろですぐに出られるという話と違い、前方の自席まで案内されてしまったようです。


扉を閉めつつ、中の係員がお席を尋ねていたのはわかっていました。もし、後方の席ですぐ出られそうだったり、しかもたまたま隣席に人がいなかったり,端の席だったりしたら、自席に座らせてあげようという判断なら良かったのですが、どうやらそうではなくて「お客様が恥ずかしい思いをされる」ということよりも「始まりそうだけど、自席に付くにはまだ間に合う。」という方向の親切に判断が行ってしまったようなのです。


(コンサートホールのやり方によっては、後から入って頂くお客様の案内は、外のスタッフが付きっきりで担当して責任を持ってお席にお座り頂くまで見届け、なお且つ中の係員にも伝達する、というルールを徹底しているところもありますが、ここでは違うルールでのご案内であることも申し添えておきます。)


演奏会を開く立場では、お客様が何を望んでおられるかを汲んだ対応が求められます。今回も、お客様が違えば反対に自席で聴きたいなどと、ニーズも違ったことと思います。今回は2つの判断材料がありました。


①お客様:元々、外で聴こうと思うほど、途中で出ることに遠慮があった。

 ↓

目立たず退席していただけることを最優先する。

恥ずかしい思いをなさらないで済むよう気を配る。


②会場:特別静かな公演で出にくい。座席は後方に人がいない。

 終演まで途中入場ができない予定。万一あっても、まだ空席がある。

 ↓

普段ならスタッフの椅子。しかし今日は一番後ろの端の空席OK。


自主企画の公演でスタッフも全て自分達で担当する時など、公演前にミーティングでこのような場合についても話し合っておけるといいのではないかと思います。その日一日限りならば、一律の対応を決めておくのもいいかもしれません。


折角予めお申し出があっても、演奏そのものを妨げたり、他のお客様が迷惑し、また、ご本人も嫌な思いをすれば、みんなにとっていいことではありません。特に退席というのは、「入れてもらえて嬉しかった。」と思っていただけるのと、「後味が悪かった。」ということの分かれ目になります。


演奏そのものしか関係ないという方もおられますが、やはり、演奏以外の所での顧客満足は大切だと思います。