ドフンはもう少しで「あなたのことが好き」と口から出そうになっていました。

少し離れた物陰で会話を聞いているシロクマのCQは冷静を保ちながらも、ドフンが言ってはいけない一線を超えた発言をしてしまうのか構えています。

ドフンはユノ王譲りの純真そのもので、突っ走ってしまうところがあり、ときにそれはお付きの人々を振り回してしまうところがありました。

チャンスンの言葉で、ハッとしたドフンはギュッと目を瞑りました。

確かに、これ以上は言っちゃいけない。

僕の発言がどこまで影響するか分からないんだ。

まだまだ半人前の僕が不用意なことは言っちゃいけないんだ。



「その顔つきだと、理解してくれたようだね。」

「はい…」

「じゃ、その気持ちにお礼をしようか。水瓶のこちら側に来てごらん。僕が泳ぐのがよく見えるでしょ?滅多に人には見せないものを見せてあげるよ。」


こう言うと、チャンスンは大きく弧を描いてジャンプすると勢いよく泳ぎ始めました。

大きな尾びれはまるで貴婦人のドレスのようにうねります。

いつか聞いた遠い国の天女の羽衣ってこういう感じなのかも。

いや、きっとそれよりも綺麗だ。

ドフンはうっとりと見ていました。

チャンスンの尾びれは、ときに柔らかくうねり、ときに鋭利な刃のように変化します。

こっそり見ていたシロクマのCQも見惚れていました。

実はCQも人魚を見るのは初めてだったのです。

こんな美しい人魚が城内にいたら、美しい宮殿と映えてさぞや見事な情景であろうな、と一瞬考えてしまったほどに、チャンスンの姿は美しいものでした。


「ふう。どうだった?」


水瓶の縁に手をかけて、チャンスンがドフンに声をかけました。


「綺麗でした。とっても。どうもありがとう。」


ドフンの表情からは勢いに任せた熱はもう感じられませんでした。

客人の王子の顔に戻っていました。


「僕はもう、ここへは来られないと思うけど、あなたのことは忘れないよ。」

「光栄です。王子様。」


二人は握手をして、ドフンはその場を離れました。



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