「何が訊きたい?」


チャンスンは水瓶の縁に座っています。

ドフンは尋ねました。


「あなたは何故ここにいるの?」

「僕は子供の頃、シウォンに拾われたんだ。女の人魚は人型になったり、人魚の姿のままで商いをできるけど、僕は色々差し障りがあってね。人型になれるようになったタイミングで捨てられたんだ。」

「ひどい…」

「人魚のときは男で人型になると女の子なんて異形以外の何物でもない。人魚の得意技の歌も歌えないし。かと言って、水がないと生きていけないし、海岸で途方に暮れていたときにシウォンと出会ったわけ。」

「シウォン殿は…」

「ロリコンじゃないよ。確かに幼女の頃の僕は可愛かったけど。」

「そんなこと言うつもりじゃ…」

「分かってるよ〜冗談だってば。シウォンはね、博愛の人なの。博愛過ぎて一人に決められなくて未だに結婚もできないくらいにね。だから、行き先のない僕を拾ってくれたわけ。こうして、僕のために水場を用意してくれて感謝してるんだ。」


チャンスンは、その大きな尾びれで水を跳ね上げました。


「この水場のメンテナンスも結構大変なんだよ。排水システムとか浄化システムとか、南の国から技術者を呼んで造ってくれたんだ。掃除は僕もやってるよ。こまめにやればきれいな状態を維持できるからね。あ、呼んでるみたいだよ。」


本当にドフンを呼ぶ声が聞こえてきたので、ドフンはその場を急いで離れました。


「明日も来ていい?」

「もちろん」

「約束だよ!」

「うん。約束するよ。」


ドフンはなぜかチャンスンとのことを秘密にしたくなっていました。

まだあまりお話していないけど、妙に気になる。

しかも気になっているのは人型の女性の姿ではなく、人魚の男性の姿の方です。

お喋りしたからかも知れません。

ドンジュにも秘密にしたいと、生まれて初めて感じました。

もっとあの人とお話がしたい。

しかし、この国に滞在するのはあとわずかです。

今日は龍の神殿に招かれていました。


「ユン様ならきっと許してくれる」


ドフンは仮病を使うことにしました。

朝食を少し残して、「なんか怠い」と言ってみたのです。

仮病であることがバレるかも知れないと、ドキドキしましたが、医師の心得もあるシロクマのCQが様子を見てあっさりと「疲れが出たのでしょう」と認めたのでした。

そして、こっそりと、「今回だけですよ」と釘を刺したのでした。


「自分がドフン様についていますので、ドンジュ様は予定通り龍の神殿へ。」

「…うん。ドフン、本当に大丈夫?」

「うん。CQの言う通り、疲れが出たんだと思う。ユン様にごめんなさいって伝えてくれる?」

「分かったよ。ちゃんと伝えるから。」



ドフンは中庭とは反対の窓からひらひらと手を振って、ドンジュたちを見送りました。



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