※別ブログに載せていたお話です。
観光ということもあるけれど、海はずっと眺めていても全く飽きない。
今日は薄曇りだけど、その雲のお陰で遠くには『天使の階段』がうっすらと見える。
思わずシャッターをきる。
いろんな海の『天使の階段』を撮り集めるのもいいかもしれないな。
夕方近くなって観光バスもいなくなり、喧騒もなくなった。
防波堤で海を眺める。
雲の向こうにある夕日が雲を薄桃色に染めていて、海もやわらかい色に染まっていた。
凪いでいるけど、僅かな波の動きがキラキラと夕日を反射している。
レンズを替えて何枚も撮っているうちに、手にポツンと水滴を感じた。
「…あ、」
慌ててレンズを下に向けてカメラをパーカーの中に入れたその時。
?
急に覆った影に驚いて振り向こうとする僕の耳に入る声。
「雨なんて、どこのトッケビが悲しんでいるんだろうな。」
!
「ユノ!」
傘を僕にさしかけてドヤ顔で微笑む人。
「探した。」
ふう、と額の汗を拭う仕草をするのも様になっている。
「なんで…」
「待ち合わせに間に合わなかったから話が終わってないじゃん。ていうか、そんなの聞かないけどな。さ、帰るぞ。」
「あの…ちょっと…」
ユノは僕に返事もさせずにカメラバッグを持って歩きだしている。
「あ、お前、KTXで来た?」
「車で…」
「だと思った。どこ?」
僕に傘を持たせているから、細かい雨粒がドンドン降りかかっている。
「待って!」
傘をさしかけると、空いた腕を僕の首にめぐらせてくる。
この人のこういう無防備なところが危険なんだ。
「ちょっと!外でこんな…っ!」
「気付いてやれなくてごめん。」
え?
振り向くと、真っ直ぐに僕を見ていた。
「俺と一緒にいるの辛いか?嫌か?俺のことがもう何も感じないなら離れる。でも、違うなら、離れたくない。俺はお前を苦しめているか?」
僕に辛いかと尋ねるあなたの方が辛そうな顔。
自分の顔がクシャリと歪むのが堪えられない。
もう、視界も歪んでよく見えない。
「お前のその顔と手が答えだと思っていいか?」
僕の手は、ユノの上着の裾にしがみついていた。
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