※別ブログに載せていたお話です
『18時にカフェの前で。間に合わなかったらそれまでということで。』
あいつが俺を呼び出したのは本当に突然だった。
しかも終業30分前。
いつもはもっと余裕をもって連絡してくるし、俺の都合を訊いてくるのに。
こんなのあいつらしくない。
終業は17時45分。
俺の部署のフロアは26階で、出退勤の時間帯はエレベーターが満員で見送らなくてはならないこともある。
待ち合わせのカフェは会社から歩いて10分くらい。
はっきり言って賭けだった。
余計な仕事は一切手をつけずに、終業時間と同時にカバンを抱えてオフィスを飛び出した。
正社員の俺たちより少し早く退勤した派遣社員たちでエレベーターフロアは列ができていた。
カバンの持ち手を握る手に力が入る。
嫌な予感がするんだ。
「チョン部長、どうかしました?顔色があまりよくないようですが…」
隣にいた男性が声をかけてくる。
「なんでもないよ。大丈夫。」
そうですか…と、彼は、それ以上話しかけてはこなかった。
エレベーターは一回だけ見送って、その次のに無事乗り込めた。
降下していくエレベーターの中で、俺の頭の中は別れを切り出すあいつばかりが浮かんでは消えていく。
よくよく考えれば、ここ最近様子が変だったんだ。
スマホの画面を見て考え込んだり、上の空なことが多くて。
俺は、自分の仕事の忙しさにかまけて、あいつの様子を見て見ぬふりをしたんだ。
エレベーターのドアが開いて、正面玄関へ人の流れができる。
俺は、早足から少しずつスピードを上げ、外に出てから一気に走り出した。
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