※別ブログに載せていたお話です。




~C~


それは、本当に偶然だった。


夜だったし、気がついてすぐに俯いたから、きっとあなたは僕に気がつかないまま通り過ぎたはず。


隣の人と笑いながら喋っていたし。


すれ違うホンの一瞬、あなたの手を盗み見た。


全身が震えた。


何故今もその指輪を着けてるの?


僕が選んだ指輪を…


僕の指にも着いている指輪を…


自分勝手にあなたの元を離れたのに。




喧騒のなかを歩いているはずなのに、何も聞こえない。


溢れそうな何かを堪えながら必死に歩く僕の手に、鼻先に、ポツリポツリと冷たいものが当たる。




駐車場まで辿り着いた途端に視界が歪んだ。


ドアに手をかける為に視線を落としたら頬に熱く流れ落ちる感触。


乗り込んでロックをかけ、ハンドルに突っ伏すと次から次に涙が流れ落ちる。


嗚咽で喉が締め付けられるように苦しい。



このまま涙と一緒に流れ落ちてしまいたい。




~Y~


まさかと思った。


人混みの中で見つけるなんて。


こちらに向かって歩いてくる。


このままだとすれ違う。


声をかけたい。


腕をつかんで呼び止めたい。




あ…


明らかに俯いたお前を見て、自分の思いがかき消された。


俺に気がついている。


ここで声をかけたらどうなる?


拒絶されたくない。


存在を否定されたくない。



俯いたままのお前とすれ違う瞬間、髪をかきあげるお前の指に光る指輪を見つけた。


心臓が跳ねる。


あれは、お前が俺たちのために選んだ指輪の片割れ。





「ごめん、用事を思い出した。」



引き返す俺に何か気がついたのか、友達は何も言わずに手をヒラヒラと振った。


人混みの中を泳ぐように進むお前を追う俺に雨粒が落ちてくる。




あの時もそうだった。


お前が去っていった日。


雨が降ってた。


雨の中を去っていったお前を、俺はただ見つめるしかできなかった。


雨に濡れて溶けてしまいたかった。




まだ手遅れじゃない。


お前と俺の指輪がそう言ってる。



車に乗り込むお前にロックオンして、俺は足を速めた。



Fin



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