ドフンは広場の花屋から、大輪の真っ赤なバラの花を一輪買い、舞台に駆け寄りました。

踊り終えた踊り子たちが、袖のステップを降りてきます。

「あのっ!」

最後に降りてきた彼女にバラを差し出しました。

「これを…っ」

すると、彼女はニッコリとしてバラを受けとりました。


片方の目がより細くなる笑顔に、ドフンはハッとします。


「また会えたね。」


彼女はドフンの頬に一瞬触れて、踊り子たちの方へと駆けて行ってしまいました。




どういうこと?

朝のあの人は男の人だった。

今の人は女の人だ。

でも、笑った顔が同じ。

それに、「また会えたね」って言った。

俺に触れた手は明らかに女性の手だった。


ドフンは考え込んでしまいました。



一方、その様子を見ていたドンジュとCQたちは何やらヒソヒソと話しています。


「ドフン、やるね。真っ赤なバラを一輪なんて。」

「確かに綺麗な人ではありました。」

「CQ、ああいう感じの人、タイプ?」

「そういうことではありません。あの方は人魚ですから、熊の自分とでは問題外です。」

「え?人魚?」

「そうですよ。気がつきませんでしたか?」

「うん。ていうか、CQが熊というのも初めて聞いたけど。クマってあだ名じゃなかったんだね。」

「これは失礼しました。」




人獣は人獣を見分けることができますが、人間は人獣を見分けることができません。

なので、ドフンもドンジュも分からなかったのです。



「熊ってどんな?今度獣身も見せて。」

「自分はヒグマです。いいですよ。」

「他にも熊さんいる?」

「彼はシロクマですよ。」

「え?彼も?」

「警備班は猛獣系の人獣が多いです。だからといって皆が荒々しいわけではないですよ。」

「そうだよね。彼はいつも僕らの身なりにも気を配ってくれるし。」



ヒソヒソ話をしていてドフンがまだ戻ってこないことに気が付いたドンジュが声をかけます。

「ドフン、そろそろバザールに行こうよ。」

バザール見物を再開しましたが、ドフンは何を見ても上の空でした。




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