~西の国~
政務を早く終えたユノ王は、パートナーでもある後宮管理人のチャンミンと二人で別棟の先王を訪ねています。
ここのテラスは眺めがとてもよく、チャンミンはとても気に入っているのでした。
後宮の女たちからの手土産を持参しての訪問に、皇太后は花のような笑顔で迎えます。
「焼き菓子ね。」
「最近、作ることにハマっているようです。パティシエを講師に呼びたいと言い出していますが、皆、男性ですから。」
「あら、では独学なの?」
「レシピだけ書いてもらって、皆で賑やかに作っていますよ。完成品を試食して、料理長に届けるのは僕の役目です。」
「そうなのね。では、これからはここにも届けていただけるかしら?」
「喜んで。」
まるで女子会のような雰囲気の中に、小さな光が飛び込んできました。
「あ、ユン殿の伝令じゃないか。」
光はユノ王の目の前で止まり、小さな龍になりました。
龍が尾をひと振りすると、キラキラと光の粒が飛び散り、その光の粒がスクリーンのようになりました。
『父上~、お父様~、僕たち無事に到着したよー。』
スクリーンに映し出されたのは、社会勉強の旅に出ている双子の王子たちです。
『国境のお弁当やさんが凄かったんだよ。』
『東の駅は物凄い人出だよ。』
『今日はね、ユン様が別のお客様を紹介してくれるんだって。』
双子たちは代わる代わる喋ります。
そして、んん、と咳払いが聞こえたかと思うと、双子たちの姿からユンに切り替わりました。
『チャンミン、お土産ありがとう。とても気に入ったよ。それから、こないだはごめんなさい。僕、もっと立場をわきまえるから。ドフンとドンジュのことはきちんと責任もっておもてなしするからね。じゃ。』
ユンが手を振ると、光の粒が四方に飛び散るように消えました。
「…ユン様」
なんとなく目が潤んでいるチャンミンです。
「チャンミン、何を持たせたんだ?」
「カップのセットですよ。彼は綺麗なものが大好きですから。」
「そうか。そういえば、そうだったな。」
二人は、遠い過去を思い出していました。
天の庭で暮らしていたとき、シェンロンは、綺麗で可愛いものが大好きな男巫女のために、美しい絵柄のカップを集めたのです。
「僕が集めたカップは、今は、ユン様が使っているんですね。」
空を見上げてつぶやくチャンミンを、ユノ王が後ろから抱きしめました。
「今も美しいカップを集めたいのか?」
クスッと肩をすくめたチャンミンが答えました。
「僕がこれから集めるとしたら、あなたと飲む月見酒の杯でしょうか。」
ごほん。
「あー、二人とも、浸ってるとこ邪魔するみたいだが、お茶が冷めてしまうぞ?」
慌てて離れたユノ王とチャンミンでした。
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