数年ぶりに足を踏み入れた森は、木々が少し低くなっているように感じる。

きっと、それだけ僕の背が伸びたんだ。

木洩れ日があの頃より眩しく感じるのは何故なんだろう。

この森は葉が落ちない森なのに。



しばらく進むと、太い光の筋が幾筋も降りてきているのが見えてきた。

水音も聴こえる。


歩くスピードを上げる。

あの人がいるんじゃないか。

根拠はないけど、なんとなくそんな気がしていた。



何年も来ていなかったのに、泉の広場は全然変わってなかった。


今日みたいに天気がいい日は他にも誰かいたりするのに、誰もいない。

地面に腰を下ろして深呼吸しながら寝転んだ。

この綺麗な空間を独り占めできているのが凄く嬉しかった。


時おり吹く優しい風が気持ちよくて、そのまま目をつぶっていると、突然頭のなかに声が響いた。

『なんて無防備な。』


跳ね起きると、泉の向こう側に鹿がいた。

物凄く大きい鹿だった。

光を弾くように艶やかな毛並みと、一歩踏み出すごとに隆々とした筋肉が動くのに見とれた。

大きな鹿は僕を真っ直ぐに見ながら歩いてくる。

僕は座ったまま鹿を見つめていた。