僕の伴侶は時々夜中にベッドを抜け出す。

最初はトイレかと思っていたけど、さすがに一時間とか戻ってこないのは変だと感じて、こっそり後をつけた。

「!」

ユノは庭で月を見上げていた。

普段は見せない尻尾を優雅に揺らしながら。

その尻尾は大きく長く、真っ白だ。

まるでユノの心のように。

真っ直ぐに立って月を見上げる後ろ姿がとても美しくて、思わずため息をついてしまった。

「っ!」

僕のため息に気が付いて振り向くユノは、しまった、とでも言うかのような表情で大きな尻尾を抱えた。

「…あ…あの、これはっ」

こちらが驚くくらいに動揺している。

「ユノ、どうしたの?」

「だって、こんな姿を…」

とうとうしゃがみこんでしまった。

「ユノ。」

「ごめん。チャンミン、ごめん。人間の姿でいなきゃいけないのに。」

ユノはふるふると震えている。 

「ユノ、僕を見て?」

ギュッと目を瞑ったまま、身体を小さく小さく丸めて震えるユノ。

「僕、キツネの姿見たいな。子供の頃の可愛い仔しか覚えてないから。」

抱え込むようにして、頭やら肩やら背中やら撫でまくったら、ユノの身体から力が抜けていくのが分かった。

「ね、見せて?」

「…いいの?」

僕を見上げる瞳がキラキラしていて、食べてしまいそうになったけど、そこは我慢して頷く。


ユノは立ち上がると弾みをつけて宙返りをして、着地したときには真っ白なキツネになっていた。

普通のキツネよりも大きくて、月明かりを反射して全身が輝いている。

「綺麗だ。」

僕が両手を広げると、駆け寄ってきて抱きついた。

<怖くない?>

ユノの声が頭のなかに直接響く。

「怖くなんかないよ。すごく綺麗だ。」

<チャンミン大好き>

「僕もユノが大好きだよ。」


月夜に何をしていたのかなんて、どうでもよくなった。



Fin