「…あの…」

「なんだ?」

「なぜ、わたくしなんでしょうか?男ですよ。それに、宦官です。」

すると、王は口許を片方だけクイッと上げてニヤリとした。

「お前、俺が知らないとでも思っているのか?」

え?

「去勢手術は受けてないだろ?」

どき。

なぜ知ってるんだろう?

ドクトリーヌは内緒にしてくれるって言ったのに。


「ドクトリーヌに命令したのは俺だからな。」

「は?」

「俺が去勢手術を止めさせたんだ。」

イチゴを頬張りながら、王は続けた。


「去勢なんて、身体のバランスが崩れるだけで良いことなんか一つもないからな。」

「後宮に入る男なのに…万が一のことが起こったらどうなさるおつもりだったんです?」

美しい細工の盃を持った王は絵のように美しかった。

「お前が来てから2年ほどになるが、何も起こらなかっただろう?」

「なぜそう思うのですか?」

「後宮の女たちに一人でも身籠ったのはいたか?」

「いえ。」

「だろうな。」

「だからといって、わたくしが何もしていないということにはならないと思いますが?」

「お前、罪に問われたいのか?」

「そういうことではありません!」

「じゃあ、教えてやろう。後宮の女たちが身籠らない理由を。」

「はい。」

「俺も抱いてないからだよ。だから、他に何もなければ身籠る訳がない。」

は?

僕はきっと鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたはずだ。

抱いてないだと?

一度も?

そんな報告は聞いてない。

どういうことだ?

抱いてない?

「お前、ホントに真面目くんなんだな。」

王が僕を手招きし、ここに座れとポンポンとクッションを叩いた。

「…失礼します。」

僕が座ると王はグイッと引き寄せた。

「ぅわっ!」

「女たちにどのようにしたのか教えてやるよ。」


わーっ!

待て待て待て待て!

「…ちょっ…まって!…」

王に押し倒されかけてる僕は、必死に食い止めることを考えた。

「王さまっ!龍と男巫女の話をご存じですかっ!」


リボンタイをほどいて、シャツのボタンを外しかけた王は、手の動きを止めた。

「男巫女?なんだそれは?」

「聞きたいですか?」

「聞きたい。」

「教えて差し上げてもいいですけどっ、この体勢では無理ですっ」



王はムスッとして、体を起こした。

「いいだろう。その代わり下らない話だったら、お前の服を全部剥ぎ取ってやるからな。」



僕は軽く襟元を整えて、飲み物を一口飲んだ。