第23回 島田荘司『最後の一球』 | 不快速通勤「読書日記」 ~ おめぇら、おれの読書を邪魔するな! ~

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読書のほとんどは通勤の電車内。書物のなかの「虚構」世界と、電車内で降りかかるリアルタイムの「現実」世界を、同時に撃つ!

あの地震後・・・、



通勤の環境が変ってしまった。




東京メトロの私鉄直通が運転見合わせになったことなどもあり、
結果として乗り換えの回数が増えてしまった。

乗り換え時の混雑を避けるためと、
「また」大きな揺れが発生して一時的にせよ電車が止まってしまう、
という事態に備えるため、
現在のところ地震の前より40~60分早く家を出ている。

これだけ通勤の時間帯を違えると、
当然ながら、
以前、同じ電車のなかでよく顔を見かけた乗客たちとも、まず会わない。


隣に座った人と腕同士が触れるのを嫌がる過敏な男も、
立ち位置にこだわる女子高生も、
降りる直前まで奥のシートで眠っているのに我れ先に降りようとするオジサマンも、
見なくなって久しい。


高校生のほうはどちらにしろ春休みだろうが、
あの「触れ合い拒絶男」と「我れ先オジサマン」は今どうしているのだろう。


以前のように「快適な席」を確保するのは難しいだろうな。
直通運行が見合わせになり、乗り換えも多くなったから、
ずっと眠っていくこともできないだろうし。


奇跡のような「好条件」のなかで、
かろうじて生活していたようなひとにとって、
この環境の変化はきついだろうなあ・・・。


・・・と、そんなことに思いを馳せながら読んでいたのが、

島田荘司の膨大な傑作作品群のひとつ、


『最後の一球』!!!



島田荘司が野球もの?
読む前はかなり違和感を覚えたが、
もしかしたらこれは題名のトリックであって、
「一球」といっても野球(あるいはその他の球技)とは
まったく関係がないのではなかろうか・・・?

と、深読みしてしまった。

しかし、文庫本の裏の作品紹介を見ると、
たしかに「バッター」とか「ピッチャー」も登場するようだ。
しかもそれが事件解決の鍵を握る・・・?

加えて、これは御手洗ものだ。

そもそも、おれは大きく誤解していて、
いざページを開いて読もうとするまで、
なぜか短編が2~3作品収録されている
「短編集」だと思いこんでいた。


実際は長編。


誤解していたのは、長編(しかも御手洗シリーズ)にはあまり似つかわしくない
「あっさりとした」題名だったからかもしれない。

ともかく、ストーリー展開がまったく予想できない状況で読み始める。

この事件(というか御手洗への依頼内容)が
どのように野球に結びつくのか、しばらくはまったく予測できない。
しかし「現場」でなぜか「野球ボール」が発見されて・・・。

御手洗と石岡の登場するページ数は、
全体から見るとごくわずか。

あとは「ある人物」の告白体の文章が延々とつづく。
でも、これがまた読ませるんだ!


あとは、もうこれ以上の予備知識なしで堪能してもらったほうがいい。


ただ、個人的な感想をちょっとだけ言うと、
いよいよ最後の「まとめ」の段階で、
○○、○○となんども繰り返す箇所はいただけなかった。

とくに、著者の島田荘司自身がけっして○○ではないがゆえに、
(穿って見ると)ちょっと皮肉にも感じられてしまうのだ。

あまりにも繰り返すことで、ちょっと説教(訓戒)じみてしまってるし。

島田荘司って、ときどき熱が入りすぎるのか、
登場人物に託して、そういう熱弁でまとめるような「締め方」をするときがある。
(吉敷竹史シリーズの代表格である『奇想、天を動かす』もそうだった)


でも、その部分をさらっとスルーしてもらえば、
(もちろん共感して読んでもOKだが)
物語も語り口も非常によくできた傑作である。

御手洗潔のすごさもスマートに味わうことができる。

是非、「最後の」の意味の深さを噛み締めてもらいたい。


  ↓


不快速通勤「読書日記」 ~ おめぇら、おれの読書を邪魔するな! ~

最後の一球 (文春文庫)
 島田 荘司 著