私立異世界博物館付属図書室所属・異世界司書の菜花奈都姫さんは、今日も元気に出張中。

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【小説家になろう】にて200話まで連載中】

 

 

 61 胸元どっきり水着のエポナさん

 

 キャンプでの朝食は、準備してあるとはいえ自分達でやる事が沢山ある。

 火起こしから始まって、水を汲んできて御湯を沸かしてコーヒーを入れる。

 調理台に出ているのは、卵にベーコン・キャベツにホットドックバンズ&フランクフルト。

 辛子にケチャップときたら、カリカリベーコンの目玉焼きとホットドックで決まりだ。

 

 フライパンでベーコンを焼いてーの、卵を落としてーの。

 キャベツを千切りにしたら、焚火の火でパンとフランクフルトを焼いてーの、挟んでーの、あとは好きなだけ辛子とケチャップで出来上がりっと。

 

「これ、どうやって食べるんですか?」

 ルシファーとベルゼが、皿にのったパンとフランクフルトを見て、チンプンカンプンになっている。

 カップ麵だけではなかったのか。

 ホットドックも初めてかい、まだ食った事ないんかい。

「パンにキャベツとソーセージを挟んで、辛子とケチャップは好みで自由にかけて食べるんだよ」

 ティンクが教えてあげる。

 当のティンクは、食材が大きくて自分で作れない。

 私が二つ作って、一つをティンクにあげる。

「ありがとう」

 魔法禁止にしたから作るのは出来ない、でも食べるのは出来る。

 朝からしっかり、一人前をペロリ。

 たまげた、恐れ入った。

 

 ホットドック初体験の二人は、キャベツもケチャップも辛子も規格外のテンコ盛り。

 そんなにかけたら辛くて食べられないってのに、一口大きくガブッとやった。

「美味い」

「最高っすねー」

 お前ら、一度耳鼻科で味覚検査受けてこい。

 それとも何か、悪魔の舌は猛烈な刺激に耐えられるのか。

 ‥‥‥そういえば、この前はルシファーがチョロチョロ口から火を吹いていた。

 してみるに、凄まじく強靭な口腔内であるのは確かだ。

 悪魔の舌に興味が湧いてきた。

 今度、ハバネロを丼一杯一気食いしてもらおう。

 どうなるか、楽しみだ。

 

「おはようございます。どうですかキャンプ場の朝食は」

 エポナさんが満面の笑みで帰って来た。

 これは絶対に良い知らせを持って来たと確信。

「皆様、今日から菜花奈津姫様の異世界司書団は、緊急事態が生じない限り出動しなくても良い事になりましてよ。勿論、最低限のお給金は保証されます。ルシファー様とベルゼ様のお給金も出ますわよ。後日、正式な採用通知を発送するそうです」

 先行き怖くなる好条件を引っ張り出してきた。

 それもこれもあれもどれも、全部昨晩の麻雀がもたらしてくれた恩恵だ。

 ティンクに感謝。

 シェルティーさんに感謝。

 エポナさんに感謝。

 不労所得に感謝。

 そうと決まれば慌てる事はない、朝から秘密の温泉に入って、ゆっくりのんびりテントをたたんで、国賓用遊園地へと向かったのは十時をタップリ過ぎてからだった。

 

 遊園地の入口には、チケット売り場も入出場者用のゲートもない。

 国賓だけしか使えないなら必要ない設備だけど、なんとなく遊園地っぽくない。

 重厚な門扉を、屈強な警備員が二人がかりで開けてくれた。

 誰かの豪邸に入っていくような感じだ。

 限られた人しか来園しない施設とあって、園内に案内看板はない。 園内地図も用意されていない。

 施設の全体像を頭に叩きこむべく、入口から一番近くにそびえる観覧車で園内を一望。

 博物館を見学した後に牧場でキャンプだったので、広大な敷地をイメージしていたけど、思っていたより狭い。

 アトラクションは十個程。 

 少ないアトラクションでも私を落胆させない理由は、乗り物やテラスの周り、それから通路や広場。

 イギリス庭園風だったり日本庭園風だったり。

 客を飽きさせない工夫が凝らされているからだ。

 人影は園内を管理する者のみで、それさえ造り込まれた庭園の一部の如く寧静に過ごしている。

「趣味が良いですね」

 思わず溢れる感動が、静かな言葉になって出てきた。

「そうですわね。シェルティーさんは造形美を追及するタイプの方ですから、凝りだすと際限がありませんの。異世界博物館の美術部長ですわ」

 言いえて妙だ。

 

 数少ないアトラクションで、第一に私が選んだのは、ジェットコースターだべさ。

 エポナさんが、レールを見ただけで即乗車拒否。

 地上二十五mから垂直に急降下とすべきか落下とすべきか。

 そのまま大地に激突寸前で急上昇の斜め四十五度三回転半捻り。

 からのー、正面垂直大回転があって、一度レールから車体が離れて宙を飛んでから、ドンとレールに戻って急上昇、頂点で一度止まり、スイッチバックで後に二回転してからホームに到着。

 危ないったらありゃしない。

 ティンクは私の横を飛んでいたからダメージなし。

 ルシファーが気絶して白目をむいている。

 ベルゼは泡をふいて痙攣している。

 本当に悪魔か。

 もっと恐ろしい思いをしてきただろ。

 人様を脅すのには長けていても、二人ともノミの心臓だったのか‥‥‥んー、一匹は蠅の心臓だったな。

 

 次に乗ったのはコーヒーカップ。

 エポナさんが優雅にカップの中で御茶してる。

 ティンクは相変わらず飛んでるから影響なし。

 何が楽しくて遊園地に通うのかよく分からなくなっている。

 ルシファーがカップを回し過ぎて、船酔い状態。途中退場。

 ベルゼはグールグール乗ったまま泡をふいている。

 本当に悪魔かよ。

 へたれにも程ってものがあるだろ。

 穴あきバケツ二人組みはテラスに放り投げて、私達はのんびり宮廷仕様の馬車で園内一周小旅行。

 

 途中で見つけた温水プールに立ち寄る。

 観覧車で見た時は庭園の池と水路に見えたけど、近くで湯気が立っているのを確認。

 係の人に聞くと、水着も貸してくれるとか。

「すごいですねー。でも、流石に妖精が着られるのはないわよね」「妖精様用も一揃い御座います」

「しょっちゅうあたしが遊びに来るから、つくってくれたんだよ。ねー」

 管理人たちとも仲良しの妖精だったのか。

 早速、冬の温水プールでまったりもっちりむっちりムチムチ。

 ここへ、元気を取り戻した悪魔二人組がやって来た。

「僕達も入っていいですか」

 悪魔が何処へ行っても差別されていた歴史と経験が長いせいか、双頭のサタンが私達と同じプールへ入るのに許可を貰おうとしている。

「当然、いいに決まってるでしょ。早くいらっしゃい」

 ハイレグ胸元ぐっきりカットのサイドメッシュ水着で、二人を手招きするエポナさんがとっても艶っぽい。

 歳を聞いたら、地球人なら誰でも卒倒する。

 見た目はピッチピチでっせー。

 まだまだ十分行けまっせー。

 

 ひとしきり温い御湯遊びを終えてプールサイドに上がると、ちょうど昼食時になっていた。

 このままここで軽食が取れると聞いて、私達はサンドイッチとカクテルを注文。

 ルシファーとベルゼはピザにカクテル。

「まさか、ピザも初体験じゃないでしょうね」

 二人の悪魔を見れば。

 カクテルにピザを浸して食べている。

 何だか知らないで注文したのかい。

 今更ああだこうだ言っても五月蠅いと思われるだけだ。

 このまま食べ終えさせて、帰ってからゆっくり教えてやろう。  

 

 勇んでプールから出てはみたものの、夜にならないと動かないメリーゴーランド意外のアトラクションは完全制覇。

 特にイベントがあるでもなく、あてなく彷徨い歩くのも疲れるばかりだ。

 ここは一旦、今夜の宿泊施設と指定された遊園地のど真ん中。

 そびえる白亜の城に入ってから考えよう。