私立異世界博物館付属図書室所属・異世界司書の菜花奈都姫さんは、今日も元気に出張中。
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【小説家になろう】にて連載中】
55 休暇の前には金貨の両替
加護を授けられる人というか、妖怪というか、化け物というか、凄い生物って、そんなに簡単且つ大勢いるものではないだろ。
「奈都姫様は黄麒麟様の後継者候補ですので、ルシファー様とベルゼ様に加護を授けるには十分なお力が有ると推察できます」
出た、推察。
「それって、希望的観察とたいして変わらないものですよね」
とか言ってみても、ここにいる連中の精神状態は問答無用になっている。
もはや、私に逃れる道は残されていない。
四の五の揉めるのも面倒だ。
試しに一回だけ、加護の儀式とやらをやってみるか。
「どうやるんですか、加護を授けるって」
「さあー」
一同一斉に首を傾げる。
発言と御願いが無責任だ。
私の記憶が正しければ、黄麒麟さんが私に加護を授けた時は「それでは早速」の後に、ひょいと右手を私の肩に乗せ「加護あーげた」で終わった。
二人に並んでもらい「それでは早速」右手をルシファー、左手をベルゼの肩に乗せ「加護あーげた」
終わったのか?
終わった事にしておこう。
「素晴らしいっす。ルシファー様に奈都姫さんの加護がついているっす。すんげー」
ベルゼの感激具合が大げさだ。
「いやいや、ベルゼにもしっかり、なっちゃんの加護がついているぞ」
お互いに鑑定しあっているのか。
どうなったのか気になる。
鑑定
【種族 天使だったけど、おいたが過ぎて今は悪魔
【職業 元魔王で双頭のサタンと呼ばれていたが、現在はプー太郎の居候
【名前 ルーキフェル・ディアベル 愛称はルシファー
【加護 異世界司書のなっちゃん
ちゃんとした名前があったんだ。
鑑定
【種族 神から天使になって、終いには悪魔になっちゃった奴
【職業 元地獄の支配者で双頭のサタンと呼ばれた時期もあったが、現在は無給でルシファーの従者やってます。
【名前 ベルゼブブ 神だった時はバアル・ゼブル、天使の時はセラーフィー・ゼブル、地獄に落とされた時にベルゼビュートになった。 愛称はベルゼ
【加護 異世界司書の奈都姫さん
今でもそうだけど、昔からややこしい奴だったんだなー。
加護の件が片付いたので、いよいよ本格的に私立異世界博物館で勝手に長期休暇の始まりだー。
と言う訳で、まずは休暇の為の資金作りから。
異世界でのアルバイトで稼ぎ貯めた金貨がたんまりある。
これをこの世界の通貨に変えれば、支度金と合わせて当座どころか質素倹約に努めて一生食うに困らないはずだ。
「アルバイトの金貨って、どこで両替するんですか。あのままではこの世界じゃ使えないんですよね」
地球人以外なら、誰でも知っている常識を私は知らない。
でも、知らない事は何でもエポナさんに聞けば、直ぐに答えが返ってくるから困ってはいない。
指輪に聞いてもいいんだけど、難しい言葉使って反応が機械的なので馴染めない。
「シェルティーさんが、この世界の両替を一手に引き受けていますわ」
一手にって独占企業ですか。独禁法はないんですか。
「シェルティーさんが両替商をやっているんですか」
「シェルティーさんが両替商をやっているんじゃなくて、窓口になっている人がシェルティーさん一人。この世界で両替が出来るのはシェルティーさんしかいないって意味だよ」
この言い方、ティンクも一枚噛んでいるのか。
「ティンクも関わっているの?」
「うん。この世界の御金は、あたし達精霊族が作ってるの」
以前、精霊の箱庭写真集の時、もっとえげつない商売に関わっているんじゃないかと勘ぐった事があった。
御金作ってるってか。
何してくれてんの。
「ふーん」
驚いた様子を見せてはいけないと強く感じる。
なんのきない返事で返しておくのが無難だ。
両替商と言えば、銀行と同じようなものだと思う。
地球規模の経済社会で銀行組織を独占しているとなると、只者ではない。
元々、只者ではなかったんだけど。
「シェルティーさんて、とってもお金持ちなんですか」
高利貸しという商売も兼業しているエポナさ。
シェルティーさんとタッグを組んだら、銀行そのものの二人。
ならば、シェルティーさんの資産状況を知っているかもしれない。
「あの方自身は、たいして御金を持っていませんわ。ただ、世界中…‥と言いましょうか…‥宇宙全体の御金を思いのままに動かせる実力者としておきましょうかね。魔法で能力を一万倍にまで上げた量子コンピューター千台で、毎日御金の動きを見ているのですが、この私立異世界博物館の世界には、御金が有りすぎて管理しきれないとか。私立異世界博物館の会費は、数十年に一度しか数えていないそうですわ。シェルリル鉱山の権利放棄は、自分にはこれ以上御金が必要ないと思ったからだとおっしゃっていました」
金持ちの定義から逸脱した存在だ。
恐ろしかー。
この話は聞かなかった事にしよう。
「では両替に行きますか」
シェルティーさんは、相変わらず経理課の机にへばりついている。
毎日殆ど体を動かさない仕事。
肩こりとかないのかな。
シェルティーさんも、誰かの加護受けてるのかな。
「これ、両替したいんですけど」
全部を両替する必要はない。
手持ちの一部を交換する。
「僕のも」
ルシファーも幾らか両替する。
「自分のも御願いします」
ベルゼは大きな袋をドンと出した。
魔界の金を根こそぎ持って来たか。
それなら実に喜ばしい行動として、今世紀最上級の賛美に値する。
家賃代わりと言う事で、当分はベルゼに面倒見てもらうか。
「現金にしますか、それともカードにしますか」
おや? カードとな。
皆さんカードにするようで、エポナさんとティンクは十分なカード残があるから両替なし。
「つかぬ事を伺いますが、カードとはいかなる仕組みですか」
「あらら、奈都姫さんはまだカードを作っていませんでしたね。シェルリル貨に両替しますと、これだけの量では持ち歩くのに重いくなりますね。カードに入金しますか。少なくなったら、また両替してカードに足せば、いつでも身軽なお財布でいられるといった仕組みです。もっとも、旅行バックで持ち歩く方なら、重いも軽いもないですけどね。支払いの時、おつりのやり取りがないので便利ですよ」
おお、電子マネーカードってやつか。
私には縁のない代物と諦めていたけど、こんな時がくるとは夢にも思ってなかったよ。
「それで御願いします。でも、カードって失くしたらどうなりますか」
大金だから、とっても心配だ。
「安心して。徽章やギルドカードと同じで、絶対に失くしませんから。保険は不要ですよ」
安心・安全。
なんて頼もしい、なんて優れたカードなの。
魔道具ってば、とっても素晴らしい。
両替を終え、気になる事が増えてはいけないから、ティンクへの質問箱其のー。
「御金を作っているって言ってたよね。どうやって作るの」
「んとね。私立異世界博物館に集まった年会費の金貨をね、金庫室の精霊達が溶かして、不純物を取り除いて99.9999%の金にするの。それに0.0001%のシェルリルを混ぜるのがー、あたしの仕事」
「どうしてシェルリル混ぜるの」
無理して混ぜないで100%の金貨にしちゃえばいいのに、余計な事をするものだ。
「シェルリルを混ぜないとね、ふにゃふにゃで金貨がつぶれちゃうんだよ。他の世界では銀や銅を混ぜたりするんだけどね。そうすると、同じ大きさでも金の割合が少なくなっちゃうでしょ。混ぜ物が多い金貨は、価値が下がるんだよ」