私立異世界博物館付属図書室所属・異世界司書の菜花奈都姫さんは、今日も元気に出張中。

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【小説家になろう】にて連載中】

 

 

 40 宇宙の不具合

 

どうして後継者が必要なのか、でしたわね」

「はい、不思議です」

全宇宙が崩壊しそうだから、ですのよ」

 ガッガ―ン。

 どうしてティンクとルシファーは、平然としていられるんだ。

 宇宙が。

 この宇宙が壊れてしまうんだぞ。

「と言いましても、今直ぐどうにかなってしまうといった切迫した状況ではないのです」

 なるほど、さては二人とも知っていたな。

「まずは、ここらあたりから説明いたしましょうかね」

 こう言うと、エポナさんが紙の帯をひねって付けて、一つの輪っかを作った。

「これを御存知ですか」

「あたし知ってる。デジャブの輪」

 ティンクが手をあげて答える。

 はずれだな。

「はい正解」

 正解なのかい?

「でもそれは、異世界博物館での言い方なのよ。地球ではこれをメビウスの輪と言います」

 そうだよね。良かったー。

 私、覚えてた。

 

「簡単に表現すると、私達の宇宙は、暗黒物資と暗黒エネルギー、つまり魔素の流れによって、このような形になっています。形と申し上げましたが理論上の形でして、観察されてはいません。実際はどうなっているのか分りませんの」

 つまり、分っていないって事で、その辺の所をはっきりしないあたりは学者と同じだな。

「先生だった頃を見ているみたいだよー」

 マグロを手に、ティンクが懐かしい目になっている。

「エポナさんて、先生だったの?」

「うん、あたしが子供の頃は学校の先生やってたよ」

 ティンクの歳って……もう、どうでもいいや。
 

 この後、宇宙について延々と語られた。

 その口調は立て板に水、次から次へと疑わしい知識が出て来る。

 そして、何時になっても終わりそうにない。

 ひょっとして、私は虎の尾を踏んでしまったか。

 ロバの尻尾だったな。

 

「私達の宇宙は、反宇宙と付かず離れずの関係で連なっています」

 さっき作ったメビウスの輪に紙帯を通して、もう一つのメビウスの輪を作った。

 まだ続くのかい。

「これが反宇宙との関係模型です。このままだとくっついてしまいますわよね。くっついた時点で、全宇宙の魔素バランスが崩れて、宇宙は崩壊してしまうとされています」

「だから異世界博物館があるんだよね」

 ティンクが、またまた手をあげて発言。

「そうですね。異世界博物館と呼ばれる空間は、この宇宙と反宇宙の隔離板役を担っています」

 

 私ってば、パンドラの箱を開けちゃったよ。

 

「両方の宇宙から突き出たこの隔離宇宙は、円錐形をしていると考えられていまして、尖った部分が地球と繋がっていて、一番広がった先で、反宇宙の円錐と繋がっています。そして、反宇宙の円錐もまた、その先端は地球のように極めて魔力の弱い天体に繋がっていると考えられています。ただし、互いの円錐が融合している地点は確認されていません。今のところは、黄麒麟様しか行く事ができません。この円錐隔離宇宙によって、二つの宇宙がぶつからないのです。繋がった部分では、互いに魔素を交換してバランスを取り合っています

「学校の時と同じだ」

 ティンクは既に総てを知っているようだし、ルシファーもたいして驚いていない。

 これって、宇宙の常識なのか。

「エポナさん、それって教科書に載ってないし、指輪に聞いても答えが出ない話では‥‥‥」

「はい、理論だけで観測も実証もされていませんので、学校では雑談として話す程度の事ですわ」

 これが雑談かよ。

 私には、まったく理解出来ないんですけど。

 

「どうして後継者がの話に戻りますと、黄麒麟様の双子の姉の具合が悪いらしくて、最近になって反宇宙とのバランスに乱れが出てきているのです。場合によっては、反宇宙側を二人で維持するようになることも想定して、今から後継者を育てている。こういう訳で御座います」

 黄麒麟さんて双子だったのかい。

 この話も聞くと長くなりそうだから、分った事にしておこう。

 なにはともあれ、終わった。

 

「ついでと言ってはなんですが、どうして異世界博物館の施設は人間サイズで使うように作られているんですか。全宇宙から観光の人が来るとなると、サイズもバラバラなのではないですか」

 あー、私ったら。

 ほっとした勢いで、また余計な事聞いてるし。

「地球に観光で行く人も多いので、地球人サイズを基準にして総ての施設を作ったからですわ。お客様には少し御無理をしていただいていますが、今ではそれもまた観光の一部となっておりますの。コスプレみたいな感覚ですわね」

 

 こうして元旦の夜は更けていった。

 少しだけ頭痛い。

 状態異状。

 加護‥‥‥どうなってるんだよ。

 仕事しろ。

 

 二日目から私達はひたすら引き籠った。

 朝から黒い丸焼きが置かれていて、皆して美味しそうにちぎっては食べちぎっては食べしている。

 これって、ひょっとしたら私のお手柄食材。

 どでか蝙蝠勘に似た容姿だ。

 どうしても手が出ない。

「これは何という食べ物ですか」

「クックバットの丸焼きですわ。異世界博物館では正月の御馳走ですの。奈都姫様の下焼き加減が絶妙でしたので、非常に上手く仕上りましたわ」

 やはりそうだったか。いただきません。

 微妙に、ありふれた正月とは違うものの、毎日テレビを見てゲームをやって、正月料理を食べて美味しいお酒を飲んで、惰眠を貪る日を繰り返し続けた。

 

 ルシファーは、異世界で魔王をやっていた時、ひたすら暴れん坊として生きていた。

 他にやったことがなくて、ゲームも始めてだった。

 カップ麺を食べてテレビを見て、飽きるまでゲームをやって寝るまではまだ許せる。

 ふっと消えたかと思うと、外の空地で体操をしている。

 散歩をしている人が気絶するから、絶対外には出るなって釘を刺しておいたのに、直ぐに言われた事を忘れてしまう。

 魔王をやめて緊張感が微塵もなくなって、ただのボケナスに成り下がっている。

 

 八日目の朝、しずちゃんから出勤命令が出された。

 私達は図書室の所属なので、本当なら図書室長ブツクサさんから出るはずの出勤命令だけど、どうしてしずちゃんが出すの?

 不安な出勤となった。

 

 呼ばれるまま館長室に入ってみれば、しずちゃんが長椅子で横になっていて、頭に氷嚢をのせて唸っている。

「うー、うー」

 その横には、図書室長のブツクサさんと、黄麒麟局の局長になったズーボラさんがいる。

「どうしたんですか、皆さんお揃いで」

 ルシファーが、差し入れに持って来たクックバットの丸焼きをテーブルに置く。

「どうもこうも、大変な事になってしまって、どうしたらいいものやら、こうして三人で頭をかかえていましたら、しずちゃんが御覧のように知恵熱を出してしまいまして」

 麒麟族の加護があったんじゃないのか。

 状態異状は総て無効にできるんじゃなかったのか。

 私の場合もそうだったけど、知恵熱だけは例外なのか。

 

 エポナさんは何時でも冷静だ。

「緊急事態のようですけど、何ががおこったので御座いますか」

「博物館の展示物が盗まれたのです」

 ズーボラさんが、倒れているしずちゃんの代わりに答えてくれた。

「私達は図書室所属で、博物館の事は博物館でどうにかするんじゃないんですか」

 お門違いの依頼であるような気がしてならない。

 こう感じる私って、変な人なのかな。

「博物館に回収班はありませんです。未払い会費を含め、図書や展示物紛失の回収は、総て異世界司書の仕事とされていますです」

 ブツクサさんが、当たり前のように言いのけてくれた。

 長い事この条件でやってきているから、別に疑問は感じていないみたい。

 こんな事情も重なって、今まで博物館直轄で動いていた。

 ちょうど悪い具合に私達のパーティーへ、白羽の矢を立てた。

 矢を放ったの、誰だ。