私立異世界博物館付属図書室所属・異世界司書の菜花奈都姫さんは、今日も元気に出張中。

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【小説家になろう】にて連載中】

 

 

 35 フェラーリ「GTC4ルッソ」

 

「では、しずちゃんも呼んできましょうか」

 瞬間寝していたしずちゃんを、エポナさんが叩き起こして呼んできた。

「城をたたみますので、皆さん一旦外に出てください」

「おい、この寒空に外へ出ろってか」

 寝損ねたしずちゃん。

 頗る機嫌が悪い。

 

 全員外に出ると城が消えた。

 直ちに異世界博物館に転送されたので、それほど寒さは感じない。

 大きな魔法陣が床に書かれた転送室には誰もいない。

 転送室から出ると、外はまだ明るい。

 こちらは昼をちょっと過ぎた頃。

「しずちゃん、初出勤よろしく」

 すぐに後ろからズーボラさんが声をかけてきた。

 しずちゃんはと言うと、ぼろ雑巾のようにグデグデしている。

 そのまま、しずちゃんはズーボラさんに連れていかれた。

 とんでもない館長初日になったな。

 

 見慣れない人が声を掛けてきた。

 一度だけ会った事があるようなないような、記憶に残らない影の薄い人物。

 図書室長のブツクサさんだ。

 細面にロイド眼鏡。

 ひょろっとしていて、黒ずくめの上に髑髏の持ち手がついた杖をついている。

 死神の異名を持っている。

「ご苦労様でした」

 静かな話口調だけど、死体以上に顔色の悪い人が言うと気味悪い。

 それでも何とか人並に動いている。

 こちらからご苦労様と言ってあげたい。

 こんなブツクサさんから私達に、次の仕事があるまで自宅待機の指示が出された。

 一ヶ月近くの出張から帰ってきてタイムカードを差し込めば、出勤した日の定時退出になっている。

 噓でしょと思ってシェリーさんから貰った時計を見れば、やはりタイムカードと同じ日時になっている。

 異世界司書を辞めたくなる瞬間だよ。

 でも、今回は大金が手に入った。

 こんなに美味しいアルバイトが付いてくる異世界司書。

 辞めるに辞められなくなってしまいそうな自分が怖い。

 

「あのー」

 瞬間移動で一気に帰ろうとしたその時、後ろ髪引く情けない声が聞こえてきた。

「僕、行く所がないんですけど」

「ルシファー。簡易城持ってるんだから、その辺の野っ原にぶっ立てちゃいなさいよ」

 軽く蹴散らしてやろうと思ったら。

「奈都姫様、異世界博物館の世界は、何処の土地も持ち主がいますから、勝手にお城は建てられませんわ」とエポナさん。

 それは困った。

 このままこっちの世界に放置しておく訳にも行かず、仕方なく同居決定となった。

 

 家に帰っても、まだ二日目では改修工事も増築工事も何も進んでないわな。

 結果、私のクローゼット暮らし。

 皆さん自分のクローゼットとガレージ持ってるんだから、そこで暮らせば良いのにー。

 かねがね思っている今日この頃。

 

 寒かったので、家の上空に帰ってから直ぐにお風呂。

 私はティンクと一緒に何時ものように。

 私達が出てから、ルシファーがお風呂に入った。

「猫って、お風呂に入ったっけ」

「黒豹だよー」

 また訂正された。

 ところが、出てきたのは猫でも黒豹でもなかった。

 どんなに斜めから見ても、優美がキラキラ溢れ出ている。

 うっそー。

 美しさ垂れ流し、もったいない。

 この世にこれほど美しいものがあるなんて、神の悪戯としか思えない。

 体型はたくましく尚且つしなやか。

 大理石の彫刻を思わせるような透き通った肌。

 プラチナブロンドの長い髪。

 見目麗しき顔立ちは、愛くるしくもあり凛々しくもあり。 

 右の瞳はサファイアのように青く輝き、左の瞳はブロンドの髪によく合う金色。

 まさに神が創造せし芸術。

 地上に降りた最強の天使。

 こうして、私とティンクは気絶した。

 

「あらあら、やはりおつむが別世界に飛んじゃいましたわね。だからダメだって言ったじゃないですか。ルシファー様、その姿でうろつかないでくださいまし」

「でもさー、魔力が戻って来たから、今の僕って黒豹でいるの凄く疲れるのよ。風呂上りくらいはリラックスしたいものねー」

  

 私達は、十五分で気が付いた。

 一度気絶したら耐性ができた。

 ルシファーの容姿にドギマギする事もなくなった。

 これもそれもみんな、麒麟族から受けた加護の御かげだよね。

 

 長期出張から返って初の夕餉。

 異世界の食事ばかりが続いていたから、今夜は少し期待できそう。

 ワクワク・ワクワク。

 今日も豪華に異世界の肉料理が出てきたー。

 こっちに帰って来た時くらい、こっちの食べ物が食べたいです。

 あとでカップ麺食べよ。

 いや、今食べよう。

 台所の棚から、カレー麺を一つ取り出してお湯を注ぐ。

「そちらの方が良かったですか」

 エポナさんが気遣ってくれる。

「うーん、ちょっと濃いのが続いたから。軽くサッパリと思って」

 何だか気まずい。

 狭い部屋の中でカレーの臭いは罪なものだ。

 肉を食べていたティンクが一番に「一本ちょうだい」と来た。

 ティンク用の小皿に一本取り分けてあげる。

 すると、エポナさんも台所の棚からカップ麺を持ち出してくる。

 あちらは天ぷらそば。

 

 そう言えば、年越しそば食べてない。

 と言うか、まだ年明けてないし、年末のままだし。

 明後日は大晦日だしー。

 騙されたような気がしてならない。

「連絡があるまで自宅待機」ラッキーと思ったけど、普通に休日を過ごしているだけだよね。

 

 天ぷらそばを美味しそうにすするエポナさん。

「それもちょうだい」ティンクがおねだりする。

「はい」小皿に一本。

 これを見ていて肉が進まなくなったルシファー。

「あのー、僕もそれ食べたいんだけど、まだある?」

 ルシファーはカップ麵が始めてなんだー。

 カップ麵デビュー!

 食べた事がないとなると、どれが好みかも何もない。

 適当目をつぶって手に取ったのが担々麺。

 始めてでは辛いかなーと思ったけど、取り合えず作ってあげた。

 

「これ、これ、これは美味すぎるー。お口の中がパラダイス」

 予想はしていたが、ルシファーの感激がキラキラになって零れ落ちている。

 しかし、口から本物の火をチョロ出すのはいかがなものか。

 

「明日は大晦日とお正月のお買い物ですわよ」

 こっちの世界では、ほんの数日前に大量の食料を買い込んだばかりだ。

 明日も買い物に行くのはちょっと気が引けるが、食材の在庫は異世界の物かインスタントの保存食しかない。

 生野菜が欲しい。

 焼き芋食べたい。

 アイスクリームとか、ケーキとか、プリンにチョコレート。

 お酒は全部飲まれちゃったもんね。

 又々大量のお買い物。

 怪獣を飼っていると疑われそうで空恐ろしい。

「また大量に買い出しするんですかー。商店街の人達から変な目で見られそうで、なんだか気が進まないなー」

「私、良い事を思いつきましたの」

「良い事ってなんですか」

「これですわ」

 自分の旅行バックを出して見せる。

 私もズーボラさんから貰っていた。

 中身は一度も見てないけど。

「ここにしまい込めば、大量のお買い物には見えませんでしょ」

「そりゃそうですけど、何処で入れるんですか。清算前に入れたら万引きですよ」

「大丈夫、それ用の車を仕入れましたの。見ていただけますー」

 

 カップ麺を食べ終わったところで、エポナさんのガレージに入った。

 先のとんがった車を馬車の横に停めてある。

 聞くよりこっちの方が早いか。

 

 鑑定

 

フェラーリ「GTC4ルッソ」

6.2リットル

V12エンジン搭載

最高出力 690PS

最大トルク 697Nm

0-100km/h加速 3.4

最高速度 335km/h