私立異世界博物館付属図書室所属・異世界司書の菜花奈都姫さんは、今日も元気に出張中。

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【小説家になろう】にて連載中】

 

 30 作戦会議は炬燵の中で

 

 疫病の治療が一段落ついたところで、私達は国境の町を後にした。 薄暗い街道を精霊界に向かって進む。

 夜が明ける頃になって、ティンクがエポナさんと出かけて行った。

 馬車は分身が動かしている。

 移動に支障はないが、いったい何をしているのやら。

 暫くすると、かごに一杯の野菜を持って帰って来た。

 こんな砂漠の真ん中で、どこにこれだけの野菜があったのだろう。

 成長は著しく悪い状態で、農家が育てている物には見えない。

 この辺りには野生化した野菜が少しだけ生えているようだ。

 異世界博物館から送ってもらうという手もあるが、視察がてらの移動だ。

 地域の現状を知るための植物採取も兼ねている。

 最終的には食べちゃうけどね。

 

 途中、魔物にも出くわした。

 のだが、ろくに食べていないから元気がない。

 退治するのが申し訳ないような気さえするが、町と町を繋ぐ一本道に出没されては後々の為にならない。

 さっさと片付けて移動を続ける。

 最終的には食べちゃうけどね。

 

 昼夜を問わず、ひたすら馬車に揺られること二日。

 道中やる事は一杯あったけど、揺れる馬車ではゆっくり眠れない。 いささか睡眠不足だ。

 時々停車しての食事休憩がある。

 この時、瞬間寝する。

 何日も馬車に閉じこもっての移動は、いつになっても疲れがとれない。

 やっとの思いで精霊界到着したのは、夜もだいぶ遅くなってからだった。

 張られた結界の壁前に城は出さず、私のクローゼットで会議を開く事になった。

 何で私の部屋なんだよ。

 

「あー、やっぱり炬燵は良いねー」

 ルシファーがえらく気に入っている。

 炬燵なしでは生きていけない悪魔に成り下がったか。

「とりあえず、一杯いきますか」

 しずちゃんが、いつもの悪い癖をさらけ出す。

 エポナさん、ダメ押しの一撃。

「はい、肴ですわよ」 

 ワイバーンの生肉に、ニンニクビタビタ醤油を付けて出してきた。

 いつも大変お世話になっております。

「わたくし、馬刺しはいただきませんが、これは大好きですの」

 馬族の女神が馬刺し食ったらいかんわな。

 ベジタリアンだったのは、会ったばかりの頃だけだった。

 ところで、気になっている事がある。

 魔界の魔物というのは、人間界で言うところの中途半端に怖い悪人なんだよね。

 だったら、目の前で取り行われている食の儀式は、とってもカニバリズムじゃないのかなー。

 これは、講習の時に魔界の森で魔物を退治した時から、ずっと抱いていた疑問だ。

 

「ルシファーさん、魔界で食肉になる魔物と、食べる側の魔人って、どうやって見分ければいいんですか」

 とりあえず、魔王に聞いてみた。

「それ来たか。難しい話になるから簡単に端折って説明すると、その世界によって違うし、同じ世界でも状況とか、条件で違ってくるんだ。この世界では、知的生命体はあまり食べないけど、お話が通じなくて、狂暴な奴は食用にされる場合もあるね。大人しいのは家畜・農耕とかペットとかにもするよ。滅多にないけど、狂暴な奴を教育して、戦闘員にする場合もあるね」

 と言う事は、はっきり言って線引きがないで良いのかな。

 恐るべし魔界。

 

「皆、聞いてくれ」

 程よく酔いの回った頃合いを見計らって、黄麒麟さんが会議らしき事を始めた。

「今、神界と人間界は昼間だ。警備も厳重で敵の動きも早い。したがって、作戦の決行は明日の昼。向こうの時間で真夜中とする。ここまでで意見のある者は」

「はい」

「しずちゃん」

「役割分担は決まっているのですか」

「これから発表する」

 頭の中に収めきれないのか、黄麒麟さんが一枚のメモを広げる。

「まず、作戦決行時に、ルシファーが精霊界の結界を破壊する。魔法が効かないので、エポナさんにも手伝ってもらう。当然だが、これは全員参加になるだろう。最前列にルシファーが出ると言う意味だ」

「セクメントに気づかれるのでは」

「気づくだろうな。時間との戦いだ。一瞬で結界に小さな穴でも開けられればいい。そこから、セクメントの結界の中に魔法を入れ込み、我等で精霊達を守る為の結界を内側に張る」

「一か所に攻撃を集中して、弱った所にあたしが突っ込むよ」

 ティンクの気合が入っている。

「それは場合によってだが、なかなか良い考えだな」

「えへへ」

 同じ精霊として、ここはティンクの見せ場だな。

 

「穴があくと同時に私が神界に乗り込んで、今回の企みの張本人と取り巻きの神を封印する。この件に関しては、他の神が手出ししないよう、秘密裏にこの世界で神界の長をやっているユーピテルに連絡済みだ。セクメントは三重結界内に、取り巻きは二重結界、関係者は一重結界の中へ閉じ込める。後に奴等の悪行を神界で調査する予定だ」

 いつユーピテルとかいう長と話つけたんだ。

「しずちゃんは、同じ時に信者の国メフィポリスを隔離。ローのマインドコントロールが解けるまで、信者は魔界が責任を持って治療するように」

「我々で宜しいのでしょうか」

 ルシファーが納得できない様子だ。

「ああ、甚大な被害を被った魔界の王であるお主なら分るであろう、信者達もまた被害者なのだ。労わってやれ」

「はっ、肝に銘じて」

「エポナさんは戦闘で傷ついた人達を救護。ティンクには同時決行の通信係をやってもらう」

 指示されたエポナさん。今は必要のない聴診器をクルクルしている。

 

 これで配置完了なのかなー。

「私、何の役もないんですけど」

 率先して参戦しようとは思わないが、何もやらないでいるのも心苦しい。

「なっちゃんは、自分の仕事をしてくれればいい。本の回収と会費の徴収だね。実際に本を使っていた者から会費を徴収する事にした。このためには、国王のローを捕まえなくてはならない。ルシファーが援護に回ってくれ。救護活動以外は、作戦開始から十分以内で完了するように。これがタイムリミットだ。もし後手にまわったら、どんなトラップが発動するか予想できない」

「何処にいるかも分からない国王ローを、十分で捕まえるのは無理があると思います」

 出来ない事は出来ないとはっきり言っておくべきだ。

「その点は私も話し合うべきだと思っている。皆の意見を聞きたいのだが、どうかな」

 

「わたくしは全分身を出動させ、救護と同時にロー捜索も一緒に行います」

 珍しく、エポナさんの顔が赤い。

 明日は朝が遅いと聞いて、何時もより飲んでいる。

「あたしは、伝令やりながら上空で捜すよ」

 ティンクの捜索方法は広範囲だ。

 成果が期待できそう。

「私は隔離した人間の中に紛れ込んでいないか確認するわ」

 何万人もの数の人間の中から‥‥でも確認はやらなければならない作業だし、しずちゃん大変そうだなー。

「僕も分身を出して捜索いたしましょう」

 ルシファー、分身できるんかい。

 さっきから、いくら飲み食いしても満足してないようだけど、それって分身の分まで腹に入れてるのかな。

「それでは頼む。私もセクメントを閉じ込めてから、神界に協力を仰いでみる。一にも二にも、民の保護が最優先ぞ」

「はい‼」

 全員の声が揃った。

 

 何時もなら作戦の開始が明日の昼だからと、少しばかり夜更かししてでも飲みたがる連中。

 今回ばかりは、多くの人命が掛かっているとあって緊張している。

 誰が言い出すでもなく、早めに飲食を済ませ、各自部屋へと帰っていった。

「エポナさん、毎日大人数の食事の支度していて、大変じゃないですか」

「いいえ、奈都姫様もティンクも、時々しずちゃんも手伝ってくれますから、大変だなんて思いませんわ。それに、これはお仕事ですから」

 さすがに、高給取りの言う事は違う。

 自分の部屋なので、私達が最後まで残った。

 エポナさんの後片付けを少し手伝ってから、炬燵に戻った。