私立異世界博物館付属図書室所属・異世界司書の菜花奈都姫さんは、今日も元気に出張中。

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【小説家になろう】にて連載中】

 

 

  28 エポナさんの疫病対策

 

「今日はここで一泊かな」

 黄麒麟さんが、平地を見つけて城を出す。

 さっさと中に入っていくから、私達も後に続く。

 エポナさんは大量の肉を片付けてから、少し遅れて入って来た。

「えっと、ロック鳥のシチューでも作りましょうか」

「えー、カニ鍋がいいー」

 ティンクは初心を忘れていなかった。

 私もカニ鍋がいい。 

「そうでしたわね。今日は特別変わった食材がありましたわね」

 今夜はカニ鍋に決定。

 

 何時もはちょっとだけ手伝って、あとはエポナさんが仕上げていくのをボーと見ているけど、今日はみんなで協力的だ。

「鍋にはビールと日本酒ね。今日みたいに寒い日は最高。つうか、この魔界って、冬以外の季節あるの?」

 しずちゃん、飲めれば肴はなんでも良しって雰囲気だな。

「さあ、私も存じあげませんわ」

 物知りのエポナさんにしては珍しい事もあるものだ。

「あたし知ってるよ。ルシファーの気分で適当に変えてるんだよ。農作物とかに被害が出ない範囲でだけどね」

 へー、いい加減なんだー。

「そうだったなー。奴は天候から季節から自由に操るのだった」

 ここで私の頭に天使の輪。

「季節を操れるなら、一段落着いたところで種蒔きすれば早い収穫が期待できませんか」

「んー」

 皆が私をじっと見て何も話してくれない。

 何かまずい事でも言ってしまったか。

「ズーボラ、聞こえるか。今直ぐルシファー宛に作物の種を送れ。多ければ多いほどいい」

「かしこまりました」

 黄麒麟さん、動き早や。

 

「はーい、カニ鍋ですよー」 

 エポナさんが鍋を炬燵台の上に乗せる。

「いーっぱいありますからねー」

 しずちゃんが生ビールを注いで持って来た。

 何処にそんな物あったの。

「いっぱいあるからね。へべれけまで飲めるわよ」

「ヤッホー、いっただきまーす」

 一番先に箸をつけたのはティンクだったが、どこを食べたのか分からない。

「ティンクのはこれね」

 エポナさんが気を利かせ、小さな鍋にティンクの分を作って持って来た。

「ありがとう」

 ティンクは実に満足げだ。

 

 そうこうしていると、ルシファーが寒そうに帰って来た。

 自分でどうにでもできるのに。

 もう少し暖かくすれば良いだろ。 

「終わったか」

 黄麒麟さんが、燗酒をコップに注いでルシファーに渡す。

 これを一息で飲み干すルシファー。

「終わりました」

 

「ルシファー、何してたんですか」

 エポナさんに、手伝いをしながら聞いてみる。

「明日行く町の皆さんに、食料の差し入れですわ。配給は普段の食事と事情が異なっていますでしょう。足りなくはないのですけど、やはり慣れた味が一番ですから」

 なるほど、言われてみればそうだ。

 ここに来て既に一週間、この世界の物ばかり食べてきた。

 後でカップ麺食べよ。

 

「緊急支援で一息ついたとは言え、解決は早い方がいいに決まっている。この調子で行って、精霊界まではあと何日くらいかかるのかな」

 黄麒麟さんがルシファーに訊ねている。

 とても気になる所だ。

「そうですねー。三日はかかるでしょうか」

「仕方のない所か」

「はい、私の気配が魔界で動くには問題ありませんが、皆様のように大きな魔力を持った方が大勢ですと、かなり危険です。セクメントに気づかれない様に移動するには、今の速度が限界かと」

「この森で夜道を行くのは危険だな。では、今夜はゆっくりやるとするか」

「はい」

 二人して、気が合いますなー。

 テレビを見ながら、クズクズダラダラの夕餉が深夜まで続いた。

 

 翌朝、またもやエポナさんに起こされた。

 本当に皆さんは何時寝ているのだろう。

 私が起きだす頃には、すっかり出発の準備が出来ている。

 

 移動の途中、魔界の森で昼食を済ませ、森を抜けてから半日ばかり馬車に揺られた。

 今日の目的地にしていた町に着いたのは、お昼をちょっと過ぎたごろ。

 昨夜のうちに手土産を渡してあるだけに、その歓迎ぶりは国王がやって来たような大騒ぎだ。

 魔王が来たんだけどね。

 

「あっ、言うの忘れていたけど、作物の種、お前宛で城に送っておいたから。この件が片付いたら蒔くといい」

「それはそれは、そんな事までしていただいて、感謝感激です」

「なーに、なっちゃんの提案だよ」

 

 名目は被害状況と救援物資の到着についての視察だが、町に留まったのは食事の為の一時間程。

 私達は次の町へ向かって出発した。

 昨日のお肉沢山と救援物資があって、町はお祭り騒ぎの賑わいだった。

 もう少しゆっくりしたかった。

 事情があっての旅では、そうも言っていられない。

 

 この世界には三つの小さな月がある。

 魔界の森と違って明るい夜道だ。

 

 ティンクが次の町について情報を仕入れてきた。

「まずいよー。あの町じゃ流行り病が出ているよ」

「よーし、今日はここで一泊するぞ」

 黄麒麟さんの一声で馬車から降りる。

 城は平坦な砂漠の上に建てられた。

「ここも昔は綺麗な草原だったんですけどねー、今では御覧の有様です」

 

 昨日は飲み過ぎたのか、軽く飲み食いしている所にティンクが飛んでくる。

 どこに行ってたんだよ。

「エポナさん、川の向こう側にいっぱいいたよ。あー、お腹減ったー。もう食べても良い?」

「ありがとうね。はい、御馳走」

 皆が食べている物に加え、ティンクの皿にはチョコレートが一つ乗っている。

「いいなー」

 黄麒麟さんとルシファーが大人げない。

 

「では、我が分身よ、行ってまいれ」

 エポナさんの尻尾の毛が逆立って、いつもよりフンワリ大きくなると、天を向いた。

 長い尻尾の毛が何本も一斉に抜けて、夜空に飛んで行った。

「尻尾の毛がエポナさんの分身になるんですか?」

「はい、忠実な下部ですわ」って、自分の一部ですよね。

 

 ゆったりのんびり夕餉を楽しんでいると、飛んで行った尻尾の毛が、沢山の虫を刺して帰って来た。

 刺されているのは、ゲジゲジみたいなのとかモフモフの毛虫とか、赤や黄色に緑。

 どぎつい色をした芋虫も串刺し状態。

 どいつもこいつも、まだウゴウゴしている。

 食事時に見たくなかった。

「ウゲッ、見てしまったー」

「あら、奈都姫様は不慣れでしたわね。ごめんなさいませ」

 エポナさんが慌てて虫を袋に入れると、尻尾の毛が元に戻った。

「何にするんですか、そんなもの」

「これはですね、良質な回復薬の原料になりますの。もちろん、疫病にも効きますわ」

 とんでもない物を作り始めたものだ。

 どう見ても毒虫だぞ。

 

 自分のガレージを広げ、薬を作り出すエポナさん。

 その音からして、虫達を磨り潰している。

 想像したくはないが、聞こえてくるものは仕方ない。

「ちょっとだけ食べて良い」

「ちょっとだけなら良いわよ」

 ティンクがエポナさんの方に行って、すりつぶし毛虫をおねだりしている。

 そんな物食ったら死ぬぞ。

 想像するのを止めた。

 気分が悪くなってきた。

 カニ鍋をガッツキ食いして、御燗した酒を飲んで胡麻化す。

 こんな私のデリケートな問題をよそに、しずちゃんは相変わらずテレビとカニ鍋とお酒の三本立てに夢中。

 

 首脳陣はというと、酒の席でも深刻な話をしている。

 他に話す事がないんだろうか。

 どの世界でも、トップはこんなものなのかな。

「して、人間界の王や国の名は分っているのだろうな」

 鍋を一つつき。

「はい、国はメフィポリス。国王の名はローでございます」

 酒を一杯。

「なんと、実在していたとは、ヒエログリフにほんの少し載っているだけの王であるぞ」

 酒を一杯。

「セクメントのテウルギアによって蘇っています」

 鍋を一つつき。