私立異世界博物館付属図書室所属・異世界司書の菜花奈都姫さんは、今日も元気に出張中。

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【小説家になろう】にて連載中】

 

 

 27 魔界のウサギ・うさぎ・兎・ピョコタカピョン

 

 こいつら、魔物殺しをゲームのように楽しんでいやがる。

 他に娯楽ないのかよ。

 ゲームやっていなさいよ。

 もっとも、こんな連中がいないと治安維持出来ない。

 この国の統治能力が、崩壊しているのも事実なんだよね。

 

 運よく、私は当たりくじを引かずに済んだ。

 魔界の、それも政府が追い掛け回す程のアウトローだ、そんな極悪人と互角に渡り合える筈がない。

 当たりくじを引いたのは、ティンクとしずちゃん。

 やる気満々の二人に当たったのを良しとすべきだな。

 

 待ち伏せの場所が近づいてくると、ティンクは頭からすっぽり防具を被って、羽をブンブン言わせ始めた。

「気合入ってるなー」

 しずちゃんが、シェルリル剛の刀を抜いて眺めている。

 しっかり殺人鬼の顔だ。

 

「止まれー、命が惜しかったら有り金全部置いてきな」

 50人はいる。

 盗賊団の親分らしいオオトカゲが、馬車の前に立ちはだかった。

「あんたたちこそ、命が惜しかったら本気で逃げな」

 ティンクが針剣をチラチラ振って見せる。

「妖精ごときに何ができる。来るなら来いやー」

「しずちゃん、行っちゃって良いみたいだよ」

「ルシファー。首を切ればいいのかい」

「そうそう」

「あたし、首切れない。違っていても良いかなー」

「ああ、君のやり口は知ってるよ。綺麗なもんだよね」

「自分は汚れちゃうけどね」

「じゃあ、ティンクは右の半分、私は左の半分だよ。せーの」

 

 一瞬の出来事だった。

 

 盗賊団左半分の頭から血が吹き出すと、スー。

 静に、首が胴体からズレて地面に落ちた。

「右の半分て言ったでしょ」

「んー、だから右の半分」

 ティンクが盗賊団側で飛び回っている。

「そうじゃなくて、もういいわ。残り半分も一緒に殺るわよ」

「うん」

 

 盗賊団に逃げる暇などない、またもや一瞬である。

 

「これ、よく切れるはわー。刃こぼれ一つしてないし」

 しずちゃんが刀の切っ先を天に向けてしみじみ眺める。

 これを見ていたティンクも、真似して針剣で同じポーズを取っている。

 

「いいなー、あの刀。どこで手に入れたのかなー。僕も欲しいなー。誰が作ったのかなー」

 ルシファーがしきりに感心する。

「私も兄弟刀持ってますよ。ティンクが作ってくれたの」

「どれどれ、見せてくれる」

「良いですよ。どうぞ」

 馬車の座席に置いてあった刀を手渡す。

「これって、シェルリル剛ですか。凄まじい技術だなー」

 そんなに凄いのかな。

 それより私が気になるのは、ティンクが何をやらかしたかの方だよ。

 

「ルシファーさん、ティンクの手口は知っているとか言ってましたよね。あの子、なのにをやったんですか」

「はは、見えてないよね。僕にも見えてないんだけど、あの子は光速で盗賊の頭を打ち抜いたんだよ」

「打ち抜いた?」

「ああ、頭蓋骨を砕いてから、中で脳をグチャグチャにして、反対側へ抜け出るんだよ」

 あー、想像したくない。

「ティンクー、早くお風呂に入りなさいよ」

「はーい」

 どんな状況か、彼女自身が一番よく知っているようだ。

 

「さて、片付けは僕の担当だけどー。確か、この辺に魔獣の巣が有った筈なんだよね」

 ルシファーが、死体を残酷な方法で片づけようとしている。

 いけない絵面。

 想像したらあかん。

 首は樹の枝にでもぶら下げるのか。

 魔界は騎士団も含めて魔力が落ちてしまい、到底盗賊団と戦える状態ではなかった。

 それはルシファーも同じで、猫だか豹だかの姿から変身することもままならないでいる。

 どうやって運ぶのか興味のわくところだけど、簡単な魔法を使って馬車に荷車を連結しただけだった。

 この程度の事ならできるけど、今できる魔法ではこれが精いっぱいとは情けない。

 

 大量虐殺の現場から一時間、町に向かって進むと、小高い山の真ん中に洞窟があった。

 どこかで見た事のある光景だ。

 ダンジョン‥‥?

「ひょっとして、この森って魔界の森って言います?」

 私の問いにルシファーが即答する。

「そう。よくわかったね」

 分からいでか。

「ここで小休止しまーす」

 ルシファーの目的が、小休止でないのは誰の目にも明らかだ。

 心なしか、ルシファーが元気になってきたようだ。

 真面な食事をしているおかげなのか、それとも魔界の森の影響だろうか。

 ここには、まだ精霊の体を通った魔素が残っているのかもしれない。

 

 死体を乗せた荷車の中から、魔法で次々と胴体部分を引っ張り出し、洞窟の入口に放り投げる。

 胴体を全部入れ終わると、今度は頭の部分を洞窟の奥へ投げ入れた。

 暫くして、奥の暗闇からバリバリ・バリバリ。

 嫌な音がしてきた。

 この音がしだいに増えていって、終いには洞窟でバリバリ狂想曲。

 外で聞いていてもうるさい程になってきた。

「だいぶ長い事食っていなかったらしいな。食欲旺盛でいらっしゃる」

 ルシファーの微笑みが悪魔のようだ。

 

 聞くに堪えない音が止んだ。

 ヒョイ。

「キャ、うさぎさん。可愛い」

 ヒョイ。

 次から次へ、奥からうさぎさんが顔を出してくる。

 口元が赤黒いのは気のせいか。

 ピョコタカピョン。

 放り込んだ胴体の周りに集まってきた。

 用心深くクンクンやっていたかと思ったら、一匹がガブッとやる。

 群がっていたウサギさんが、我先にと死体にかぶりつく。

 なんと悍ましい。

「こりゃいい。今夜はウサギを食いたい放題だなー」

 黄麒麟さんが喜んでいる。

「これだけウサギがいれば、他の階にも貴重なタンパク源がいるはず」

 ルシファーの囁きが、私の耳奥で木霊する。

 

 黄麒麟さんが、山の洞窟を恨めしそうに見つめている。 

「なっちゃん。山の中透視してくれないかなー」

 ほら来た。

「自分でできるじゃないですか」

「テレビで見たいんだよ」

 わがままなきかん坊かよ。

 しずちゃんがテレビを持ち出してきている。

 キリッと目を凝らし、テレビに画像を送る。

「ああ、いるねー。うじゃうじゃ」

 黄麒麟さんが興奮気味である。

「黄麒麟様、上の階にはロック鳥が随分と屯してますわ」

 エポナさんの鳥料理は絶品だ。

「おっ、最上階にいるのはワイバーンじゃないの。三匹もいるじゃないの」

 しずちゃんは、食べるより戦う方に興味が向いている。

「地階にいるの、カルキノスじゃないのかなー。珍しいねー、水もないのに。今夜はカニ鍋で決まりー」

 ティンクってば、美食家かも。

「最下層には地龍がいますな」

「いいねー、行っちゃう?」

 黄麒麟さん、ルシファー、そこはそっとしておいてあげて。

 

 なんだかんだ、一瞬でウサギ狩りを済ませると、各自目的の階に直行。

 十分ばかり山のあちこちで、ギャー、ビエーとやったら、ほぼ一斉に静まり返った。

 

 ドンドン・ドンドン。

 魔物が山積みになっていく。

 そこで解体しないで。

 ルシファーが地面に大穴を空けると、解体班は不要な部分をポンポンその中に放り込んでいく。

 ある程度たまると、ルシファーが魔王の業火で焼き尽くす。

 毛とか骨とかが焼ける臭い。

 うえっ! 気持ち悪い。

 解体で特筆すべきは、エポナさんの処理能力だ。

 大型の魔獣でさえ、一体に五分とかからない。

「この包丁のおかげですわー。切れ味最高。力要らずですの」

 いささか陶酔している感が強い。

 危なっかしい表情になって来た。

 

「自分達の食べる分だけ取って、あとは僕のガレージに入れてください」

「ホーイ」

 私以外は事情を知っているみたい。

 威勢よく、ルシファーの指示に従ってぶち込んでいる。

 エポナさんが大量の肉を馬車に運ぶと、残った分はルシファーがどこかへ持って行った。