私立異世界博物館付属図書室所属・異世界司書の菜花奈都姫さんは、今日も元気に出張中。

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【小説家になろう】にて連載中】

 

 

 

  25  ライオン顔の女神はどこに

 

 鍋を片付けて洗ったり、シチューを温めていた焚火の後始末等をしていたら、ルシファーが訊ねてきた。

 まだ熟知はしていないけど、石造りの回廊を抜けて黄麒麟さんの部屋へ案内しようとしたら、ルシファーの方が中の事情をよく知っていた。

 何百年か前、一緒に旅した事があって、その間はこの城で寝泊りしていたとのことだ。

 ちょっとした旅をするのにもテントではなく、城を持ち歩くとは流石というか破天荒というか。

 

「ルシファーよ、よく今日まで耐えてきたな。どうだ、少しは落ち着いたかい」

 自分の城にいるせいか、少しばかり砕けた雰囲気の黄麒麟さんがルシファーに聞く。

「はい、助かりました。それは良いのですが、何ですかその四角い布団の塊は」

 黄麒麟さんは、私の部屋にあった炬燵が偉く気に入ったらしくて、自分の部屋にも真似して設置していた。

「これか、これはな、炬燵という代物だ。入ってみろ。暖かいぞ」

「暖かいのですか、これが?」

 ルシファーが、疑いながら足を炬燵に突っ込む。

「あー、これは。ちょうど良い暖かさで、たまりませんねー」

「だろー。君達もそんな所に突っ立ってないで、こっち来なよ」

 いつもの黄麒麟さんに戻って、私達を手招きする。

 炬燵の近くまで行くと、すぐ近くにシステムキッチンが有るあたりも、私の部屋によく似ている。

「ねえ、しずちゃーん。カクテル作ってよ」

「はい、はい」

 しずちゃんが気のない返事をする。

 ルシファーの分も作るのが、乗り気でない理由なのは分り切っている。

 

 なんだかんだ言っても、酔ってしまえばただのデレ助である。

 私も含め、グデレグデレと無駄な時を過ごす。

 ハードな一日だったし、こんな時間も必要だよね。

「どうして魔導書盗んじゃったの、その書記君」

 酔っている時の話でもなかろうとは思うけど、暇がないから【こんな時にも御仕事】になっちゃうんだろうな。

「何でも、危ない宗教を盲信していたようで、マインドコントロールが解けた今は、事の重大さに気づいてしまいました」

「気づいてしまったとは」

「書記ですから、事態の一部始終を知っているのです。多くの国民が犠牲になった事を思えば、もう長くは生きていないでしょう」

「自ら命を絶つと?」
「厳重に見張らせてはいますが‥‥おそらく」

 

 長い沈黙があった。

 

「それでさ、魔導書なんだけど、どこに行っちゃったのかな」

 炬燵台に乗った酒・肴に舌鼓を打っての質問が重い。

「一度は、危なっかしい宗教の神がいる神界に届られたそうです」

「んー、神は魔導書使えないでしょ。持っていたって何にもならないよね」

 神には無用の長物なのか? 話が見えてこない。

「ねえ、神が魔導書って意味ないんですか。エポナさんは女神だから知ってますよね」

「ええ。一般的に、神の奇跡は魔素を使うのではなくて、神力と信者の信仰心を使って、実在する物体に変化を与えますの。魔素と魔力で発動する魔導書は扱えません。私なら扱えますけどね」

 どや顔ビンビン、伝わってきてますー。

「そうそう、どうなってんの。気候変動だの自然災害の多発だのって。エポナさんみたいな能力者は、そうそういないよー」

 黄麒麟さんが怪訝な顔になる。

「神から、この神の信者ばかりで構成された国家の王に、下げ渡されたのです」

 王は人間だが、魔力を有していればそれなりに魔法が使える。

 これを使えば、神にはどうにもならない魔導書を、利用する事も可能だ。

「それでも、君程の魔力があれば、人間が仕掛けた魔法なんかどうとでもなったろう」

「はい、最初のうちは難なく跳ね返していたのですが、次第に魔法力が落ちてしまいまして」

 

 魔法力が落ちるとは、不可思議な現象だ。

 

「原因は分ってるの?」

 しずちゃんがルシファーにカクテルを勧めて聞く。

「ああ、神が精霊界に結界を張ったせいで、強力な魔法を発動させる為の魔素が、魔界に流れてこなくなっているんだ」

 

「エポナさん、魔素ってのは暗黒物質と暗黒エネルギーでしたよね。それって、この宇宙に溢れているんじゃないんですか」

「はい。そうですが、精霊達はこの魔素を呼吸していますの、いったん精霊の体に入ってから出てきた魔素は、魔力に反応しやすい状態になりますので、強力な魔法を使う時は、精霊の魔素を使います。奈都姫様は、教えなくても自然にこれが出来ていたので説明いたしませんでした」

 

 黄麒麟さんとルシファーは、相変わらず深刻な話をしている。

 

「結界を張っている神は分ってるのかい」

「総ての厄難を仕組んだのも、セクメントです」

「あいつかー、こりないなー」

「魔導書を使って災害や戦争を起こしている人間界で、王の守護者にもなっています」

「なんと言うことだ。奴には味方する神も多いので始末に悪い。厄介な事だな」

 黄麒麟さんが、極小グラスのカクテルを飲んでいたティンクに指示する。

「ティンク、明日の明け方に、精霊界の結界を見てきてくれないか」

「はーい。魔法の結界なら難なく対応できるものね。素が信者の信仰エネルギーとなったら、余程強い魔法じゃないと対処できないものねー。そんな訳で、さっき行ってきました。その言葉を待ってました」

「行って来たってか」

「はーい、あたしは魔法を使わなくても、光より早く移動できるからねー。時々時間が逆行しまーす」

 

 タイムマシーンか。混乱しないか。だからいつもピントがズレているのか。

 

「して、どうよ」

「はい、あれは信仰エネルギーを使ったものだよ。精霊の私でも精霊界に入れませんでした」

「辺りの見張りはどうだった。精霊達を人質に取られているのと同じだからね。下手に手出しすれば奴の事だ、精霊界そのものを消滅しかねないからな」

「見張りはいなかったけど、結界を破った時点で気づかれちゃうよね」

 

 キキリンさんが頭を抱えて考える事五分。

 

「なっちゃん。酔いが醒めてからで良いんだけど、セクメントの居所を透視と千里眼で確認できないかなー」

「今でもいいですよ」

 何気なく酔った勢いで答えてしまった。

「黄麒麟様、それはいくら何でも無理です。精霊界を一つまたいだ向こうですよ。遠すぎます。黄麒麟様でもできない事だから御願いしたのでしょうが、見れば人間、それもまだ年端も行かぬ少女ではありませんか」

【年端も行かぬ少女】おー、なんて美しい響きなんだ。

 人様に年齢を聞かれると、半殺しにしてやりたい衝動にかられるお年頃の私に対する最上級の賛美だわー。

 ルシファーって、とっても良い悪魔なのね。

 

「年端も行かぬ少女って。ルシファーや、この娘はな」

「んっんっー。黄麒麟様、お酒が過ぎているようですわよ」

「えっ?」

 エポナさんが助け舟出航。

 

「やれるとは思いますけどー。土地勘も地図もないし、第一にセクメントって神の姿形も知らないし。砂漠に落とした星砂捜すみたいなー」

「頭頂に赤い円盤を載せたライオン顔の女神だから、分かりやすいんだがなー」

 うっ、グロ!

 

 この時、私のおつむにい希望の光が降りてきた。

 

「テレビだ! テレビ使いましょう。みんなで捜せば確率がずっと高くなる」

「テレビ見るのー。ヤッホー」

 しずちゃんは戦力にならないな。

「テレビ? いかようなものですか」

 ルシファーはまだ見た事がなかったね。

 

 私の部屋からテレビを持ってきて、部屋の真ん中にセットした。

 

「ほー、これがテレビですか」

「はい、動く絵が見られます。これと私の目を魔法で繋げば、私の見ている物を皆さんも見られると思います」

 ルシファーは理解できないらしい。

 黙り込んでしまった。

 

「では始めまーす‥‥ところで、神界ってどっちの方ですか、方向が分からないと」

「こちらでございますわよ」

 エポナさんが私の頭を両手で包んで、神界の方へ向ける。

 神界全体が見える位置に、千里眼を合わせる。