私立異世界博物館付属図書室所属・異世界司書の菜花奈都姫さんは、今日も元気に出張中。

https://mypage.syosetu.com/787338/

【小説家になろう】にて連載中】

 

 

21  硬貨一枚一億円

 

 この様子に黄麒麟さんが反応。

「君にもネックレスあげようか。ルシファー君には攻撃魔法が効かないからね。君の場合、体力は有り余ってるから、ブレスレットは要らないだろ」

 黄麒麟さんが、自分のクローゼットからネックレスを引っ張り出してきた。

「ちょっと古いデザインだけど、人間が古いから大丈夫だよね」

 何でも言いたい放題だな。

「では明日からの予定です」

 いつの間にか、黄麒麟さんがこの宴会を仕切っている。

 何度でも言うよ。まだ休暇中なんですよ。

 もう外はしっかり明るいし。

 眠りたい。

「その前に少し寝ますかね」

 助かったー。

 

 どのくらい寝ただろう。

 気か付いけば外はもう薄暗い。

「奈都姫様、行きますわよ」

 エポナさんに起こされた。

「何処に行くんですか」

「洞窟の魔物退治です」

 外に出ると、チスイウサギとロック鳥はすっかり片付いていた。

 昼間の内に片付けたんだろけど、凄まじい体力の持ち主ばかり。

 とんでもない集団に混じってしまった。

 

「作戦はあるんですか」

「そんなものはありませんわ。奈都姫様は上二階のクックバットを御願いします。更なる最上階に巣くっていたロック鳥は既に串打ちしてありますので、一仕事の後は焼き鳥で一杯でございますわよ」

「エポナさんは一緒に来てくれないんですか」

「行きますけど、退治は奈都姫様お一人で御願いします。私はアドバイスだけです」

 不安が私の歩みを鈍くする。というか、足が動かない。

「大丈夫ですわよ。クックバットは羽を焼いてしまえば何も出来ませんから」

 火炎放射ですか。

 見た目悪いからなー、あまりやりたくないんですけど。

 

 オドオド・ビクビク、キャー!

 恐怖と戦う十三段。

 必死の思いで二階に辿り着くと、天井には無数の大型蝙蝠がぶら下がっている。

 幼児くらいの大きさは余裕である。

「熟睡していらっしゃいますわね。今ですわよ。地獄の業火で一気に焼いてしまいましょう」

「‥‥‥」

「今ですわよ。今です事よ」

「‥‥‥」

 えーいこうなったら自棄だ。

「バ―ン! ディープ・パープル」

 勢いをつけて両の手から炎を洞窟一杯に放つ。

 ゴー、ボトボトボト。

 肉の焼ける臭いと一緒に、蝙蝠が落ちる音が脳に直接響いてくる。

「安眠妨害、ごめんなさい」

 

 粗方落ちてピクピクしている。

 エポナさんが自分のクローゼットを広げた。

「拾ってくださいな。貴重な御馳走ですわよ」

 嘘、これ食べるの?

 両手を真っ黒にして拾い終えると、下の階に行っていた黄麒麟さんとしずちゃんが上がって来た。

「どうでしたか、初討伐」

 しずちゃんがにこやかに聞いてくるけど、体中返り血を浴びている。

 とてもじゃないけど会話する気になれない姿。

「エポナさん、大猟だねー。今夜も御馳走決定ーってか」

 黄麒麟さんが、最下層に巣くっていたヴィーヴルを引き摺っている。

「他のは食えないから、大穴の底に放り込んで酸を流し込んでおいた。今頃はすっかり溶けているだろうな」

 黄麒麟さんの言葉が心臓にグサリとくる。

 他のは食えないと言う事は、ヴィーヴルも食う気満々だ。

 

「それはよろしゅうございました。ところで、洞窟の中に気になる物がありましたので拾ってまいりました」

「エポナさんも気づきましたか。実は僕も、ほら」

 二人の広げた手には、虹色に輝く石が乗っている。

「シェリーさん、呼びましょうかね」

「その方が宜しいかと」

 しずちゃんとエポナさんがヴィーヴルをさばいている間に、黄麒麟さんがシェリーさんを呼んでひそひそやりだした。

 どうせ私が聞いても分からないし関係ない話だ。

 ヴィーヴルをさばくのもできないし、ここは部屋に帰って寝ると決めた。

「私、疲れたので寝ます」

「はい、ご苦労様ー」

 皆さんの声がやけに明るい。

 

 一眠りしてキッチンに行くと、焼き鳥を焼き始めていた。

「わー、美味しそう」

「奈都姫様、お目覚めですか。ロック鳥の焼き鳥はそれはもう美味しゅうございますわよ」

「食べ物って、地球とあまり変わらないんですね。材料は違うけど」

「そうですわねー。あちらに観光で行く方も多いので、食文化は似ていますわ」

「食に国境なしですね」

「そうですわね」

「あら、黄麒麟さんは、居ないみたいだけど」

 今頃は当たり前の顔して、まったりお酒飲んでると思っていたから、居ないのに驚けた。

「シェルティー様とズーボラ様と黄麒麟様の三人で、ヘル様の所に行きました」

「ああ、チスイウサギ持って行ったのね」

「それは、ついでの話で御座います。先にやっていてくれとの事でしたので、私達だけで始めましょう」

「いよっ。待ってました」

 炬燵の方から、しずちゃんの声がする。

 さっきから一人でテレビを見て空酒を飲んでいたらしい。

 

「はいはい、出来上がりましたわよー」

 大皿テンコ盛り焼き鳥が炬燵台の上に置かれ、しずちゃんが忙しそうにカクテルを作り始めた。

「チスイウサギがついでって、何事なんですか」

「私と黄麒麟様が持ってきた石を、シェルティーさんに鑑定していただきまして、シェルリル鉱石に間違いないと」

「と言われても、シェルリル鉱石が何だか分りません」

「シェルリル鉱石は、宇宙で最も高価な金属の素ですの」

 エポナさんが焼き鳥を小皿に取り分けてくれた。

「シェルティーさんが精霊界へ集金に行った時に、洞窟で休憩していたら魔物に襲われたのね。あっさり討伐した時、中にあった妙な石がシェルリル鉱石だったの。これを精製したのがシェルリルってわけ。偶然発見した金属なんだわ」

 しずちゃんがカクテルを出してくれる。

 

「空気のように軽くてタングステンのように硬いのです。それはもう、包丁にしたら最高の一品になる事間違いありませんわ」

 乙女の目になって憧れを語るエポナさんに、静ちゃんがNGを出す。

「エポナさん。それって恐ろしく高価な包丁になっちゃいますよ」

「そうですわね。加工が非常に難しくて、一部の精霊にしか扱えないものですから、現実的な話では御座いませんわね」

 話が霧の向こうで、私は二人の会話に若干遅れた反応しかできない。

「そのシェルリルって、幾らくらいするんですか」

「あら、奈都姫様。御存知なかったのですか。神界へ挨拶に伺った時に、お土産でいただいていますわよ。ほら、あれ」

 エポナさんが、額に入れて壁に飾った大型の硬貨を指す。

「ああ、あれですか。確かに虹色に光ってますね。さっきの石と同じだわ」

 ここで静ちゃんが驚いた様子。

「ひっとしてだけど、貴方、人間界で貰った剣の事も知らないの」

 高そうだったので壁にかけて飾ってあるけど、あれって何物よ。

「知りません」

「まあ呆れた。あれはエクスカリバーよ。聞いた事くらいあるでしょ」

 半分怒って半分笑っていたしずちゃんが、ぼんやりする私に大きな声になる。

「だからかー、地球では幻のソードと呼ばれてるでしょう。ここへ持ってきちた、あれ、あの刀の事」

 凄まじい話になって来た。

 こうなると額の中の硬貨、どんだけ?

「あのー、シェルリル硬貨ってどれだけ価値のあるものなんですか」

「地球の貨幣と、単位も位もほぼ同じですから、分り易いですわよ」

 

 聞いた話では、この世界の流通貨幣は以下のようになっているらしい。

    札はない

 鉄貨        1円  

 アルミ貨        5

 真鍮貨        10

 銅貨         50

 子銀貨        100

 中銀貨       500

 大銀貨    1000

 小白金貨      5000

 中白金貨      10000

 大白金貨    50000

 小金貨      100000

 中金貨      500000

 大金貨      1000000

 小シェルリル貨  5000000

 中シェルリル貨 10000000

 大シェルリル貨 50000000円 

 黄麒麟印の特大シェルリル貨  1億円

 

 だってさ。

 

 一億だってよ。

 

 うっそー‼