ひとかけらの木片が教えてくれること
田鶴 寿弥子
感想
日経の書評で紹介されていた。
筆者は木材の解剖学を軸に研究をされており、2021年の「京都大学たちばな賞」において「優秀女性研究者奨励賞」を受賞された田鶴寿弥子氏。
普段、あまり意識したことのない木の種類や特徴などについて、さまざまな話があり、面白かった。
また、筆者の木に対する愛情なども随所に感じられ、読んでよかったと思える本だった。
例えば、筆者の仕事の一つとして、「使われている木の種類、樹種を特定する」というものがある。
一般に樹種を特定するには、
・色を見る(針葉樹は黄色っぽい茶色など)
・手で感じる(重さ)
・嗅ぐ
・味わう
といった手法をとるのを手始めに、
木口(こぐち)
柾目(まさめ)
板目(いため)
の三断面から薄片を切り出してプレパラートを作成し、光学顕微鏡で観察することも行う。
しかし、古い仏像など、貴重なものは多くの木片サンプルを採取できない。
そういった場合は
・CT(コンピュータ トモグラフィ(コンピュータ断層撮影法))で確認するらしい。
これには人間ドックなどよりもすごいX線を利用する。
(兵庫県にある大型放射光施設「Spring-8」で利用可能なシンクロトロン放射光X線を利用する)
この大掛かりな装置を使っていることに驚いた。
他にも面白いなと思ったのは以下。
『日本は小さな国土にもかかわらずその70パーセント程度が豊かな森林に覆われ1,000種を超える木が育成している。
樹種の特性に沿った適切な利用体系が古くから確立し、地域や時代、文化の変遷とともに変化してきたことが、遺跡出土材の体系的な樹種調査などからも明らかになってきている。
その用材観は今から1300年以上前に編纂された日本書紀にもある。
「スサノオノミコトは、日本には船がないと困るだろうといい、ひげを抜いて撒くとスギに、胸毛はヒノキに、お尻の毛はマキに、眉毛はクスノキになった。そして、スギとクスノキは船に、ヒノキは宮殿に、マキは棺桶に使うようになった」
実際に、遺跡出土材の樹種調査を行うと、古い時代の船にはスギやクスノキが使われていることが多く、寺院の柱にはヒノキが多用されていたことが明らかになってきている。
マキについては、コウヤマキを指すと考えられるが、古代には木棺に使われていたことが明らかになっている。
1300年前に書かれた文献に樹種ごとの使用方法が的確に記されていたという事実から、それより前から日本人が木と共生し、それ相当の適所適材の知識を備えていたことは明らかである。』
入れ歯の話も面白い。
江戸時代は、入れ歯を木で作っていたらしい。
木の種類としてはツゲ属やサクラ属などは表面がより緻密で均質になることから入れ歯の材料として選ばれたらしい。
また、なかには「おはぐろ」を施した木の入れ歯まであったらしい。(おはぐろはタンニンによる虫歯防止の効果もあったそうだ)
昔の人もやるな、と思った。