アヤさんはいつでも、ふいに居る
いつ来たのか、いつ帰るのかマスターのなんさんでも気付かないうちに、いつもの窓際の席に座っている
そして、常連客と一言もかわすこともなく、なんさんと話すこともなく、本を読むでも、ケータイをいじるでも、編み物をするでもなく、ただじっと座っている
まるで「これが、私の仕事です」とでもいうかんじで座っている
でもまあ、それだけでは目立つことはないのだが
アヤさんのカッコがそうはさせない
今日も漆黒のドレスに純白ヒラヒラのレース胸元の大きなリボン、頭にはキッラキラのティアラ
・・・で、ただ座っている
悟りでも開こうという気なのか?
シーーーーン と静まり返った店内で、なんさんがセッセセッセと調合にいそしんでいた時のこと
カフェ「南斗」入口のほうから「カリカリっカリカリっ」っと音がする
カリカリっ・・・・
カリカリっ・・・・
どうやらペットがドアを開けてくれという時にだす、ひっかき音のようだ
なんさんは、ぶつけてしまわないように、気遣いながらゆうっくりとドアをあけると
そこにはやはり、ネコがいた
まっくろな小さい子猫だ
口には小さな小さな籐のバスケットをくわえている
「あら、いらっしゃい、どうぞ~」
子猫はなんさんの足元をすりぬけると、とっとっとと店の奥まで歩いて行くと
くわえていたバスケットを床に置いた
「おとどけもの?」
「ニャッ」
「あ、そうなの」
「きみ、名前は?」
「ニャニャニャーニャ」
「へぇ~かっこいい名前ね」
「ミルクでものんでかない?」
「ニャッ」
「ニャアン」
「ん、そっか、ご主人様が待っているのか」
「ごめんごめん、引きとめて」
子猫はくるりと身をひるがえし、また、とっとっとと出て行った
「またおいでね~」
なんさんが手をふると
「はあ~い」とでも言うように子猫はしっぽを、くりんくりんとふる
子猫がでていったので
カフェ「南斗」はまたもとの静寂にもどった
・・・かのようにみえたが、ちがっていた
かっち かっち かっち かっち かっち
子猫が入ってくるまでは、しなかった音が規則正しく鳴っている
耳に手を当て、音の出所をなんさんがさがしていくと
どうやら、子猫のお届けもののバスケットからみたいだ
「これ・・かな?」
「めざまし時計でもプレゼントしてくれたのかな?」
「私、朝よわいしー」
なんさんがバスケットに手を伸ばした瞬間
ばさばさばさばさ!!!
と真っ黒い影が尋常でないスピードで、なんさんにとびかかってきた!
つづく
次回なんさんの身になにがおこるのか!?
「なん、危機一髪!」の巻き お楽しみに!!
