でも、当時のわたしはさしあたりそのことについて何ら疑問もなければ、不満を感じたこともなかった。
4〜5歳の少女に、そんな疑問を感じる思考はないのかもしれない。
寂しいとは思わなかったし、母を必要としている気持ちもなかった。
母を恋しがる気持ちがなかったのかもしれない。

そういえば、幼少期にお風呂に母と入った記憶がない。
思えば、もう幼稚園年中の頃にはお風呂には一人で入り、それも思い出せるのは一つの記憶だけだったりする。
大きくなってからの母は、あまりお風呂に入っていなかったので、その時にわたしがお風呂に入れていたのかは少し疑問が残るが記憶がないので仕方ないかもしれない。

小学生。
わたしは、もうこの頃から母に違和感を感じる。
どうして、うちは他の家と違うんだろう?
多分、大きくなって学校に行き、他の家庭を目にしたりし始めたからだろう。

部屋は乱雑に散らかり、キッチンにはいつも汚れた食器が入っていた。何日洗ってないのかも、部屋を何日掃除してないのかもわからなかった。
水場、キッチン、洗面所、トイレ、風呂なんかは特に汚れが目立ち、わたしは友達を家にあげることができないし、お風呂の釜に浸かることが生理的にできなくなった。

父は、そんな掃除をしない母を怒鳴りつけ、たまには父が掃除したが毎日は続かなかった。
母は、父が帰るまでにはパッと軽く片付けて、やり過ごすようになっていたが、相変わらず部屋は汚れていった。

学校に通う日は、朝は誰も起きてなかった。
父はわたしより早く家をでて、母はわたしが起きても寝ていた。
朝ごはんを食べた記憶はない。
テーブルに置いてあったパンは食べただろうか。

学校から帰ってきても、母は相変わらず布団にいた。
最初は「頭がいたいの」と、部屋の扉を閉める母を心配していたが、それも毎日続くと怒りに変わった。
部屋は朝のままで、家の中は薄暗く、どこもかしこも汚らしい部屋のまま、和室に閉じこもり何もしない母に怒りをぶつけたが何も変わらなかった。

わたしはだんだんと、家の食事を取れないようになってくる。
それは、汚れたキッチンから出てきて、汚れたダイニングテーブルに置かれた食事を口にすることが生理的に受け付けなくなってきたからだ。
キッチンはいつもドロドロとして、かびだらけだった。
いつから洗ってないのかもわからない炊飯器は、周りがドロドロに汚れて埃を被り、中蓋はカピカピのなにかがいつもついていた。
その中には、いつ炊いたかもわからない米を出して並べられても、わたしはそれを口にすることができなくなってくる。