母がいつものように仕事へ行き、父と寝ていた夜中、電話がなった。
『ゆかちゃん(私)、ママ殺されるかも...助けて』
電話は母からだった。
小学生の私には何がなんだか分からなかった。
電話口で泣きながら助けを求める母。
『ママ、今手首を切られて、縛られてる、死ぬかもしれない!』
父を起こし、私は部屋へ戻った。
母は郵便局員の自宅へ監禁されていたそうだ。
郵便局員が母を独り占めしたいという欲から起った事件だった。
父や祖父、警察が自宅を探し、次の日の朝、母は自宅へ戻ってきた。
父は母とその男の元に着いて、『次、妻をこんな目に合わせたら殺す!』と一言だけ言い放ち、すぐに仕事へと向かったと祖父から聞いた。
警察の人も、『こんな冷たい旦那さんはいない』と言ったそうだが、妻が自宅へ帰って来ず、自分から男の元へ行き、事件が起こったのだ、父だって傷付いたに違いない。私は父が悪いとは一ミリも思わなかった。逆に父を心配した。母を軽蔑した。
祖父は昔から喧嘩っ早い性格で、誰からも怖がられていた。
もちろん祖父は郵便局員をボコボコにした。
その後、郵便局員は私の家族に土下座をして母の仕事の送迎、母のお店でお金を使う事だけは続けた。
それから数ヶ月、母には3人目の彼氏ができた。
ヤクザの男だった。
母はその男にとことんハマっていたと思う。
今までとは違う、私の家族が壊れてしまうきっかけになった男だ。