「ワクチン2回打てば安心」と思い込む高齢者が引き起こす社会の不和
「近くの公園では、ゲートボール大会が開催されていて、高齢の参加者が十数人はいたと思います。ボールを打つカーンという音は、早朝の7時頃から聞こえていて、ほとんど自宅から出られない娘(小5)は、うらやましそうに『いいなあ』と」(中原さん)
実は、ゲートボール大会が行われていた公園には、数年前までは滑り台やブランコなど「児童公園」らしい遊具がいくつも設置されていた。娘が生まれてはじめてブランコに乗ったのも、はじめてかけっこをしたのもこの公園である。しかし、遊具に老朽化が見られると使用禁止の張り紙がなされたのは3年ほど前のこと。古い物が撤去され、新しい遊具が設置されるのかと期待していたが、跡地はガランとしたまま。
こうした経緯があっただけに、コロナ禍で外に出ることもままならない子供が、公園で楽しそうにゲートボールに興じる高齢者をうらやましく眺めていることに、正直腹が立った。高齢の自治会長にその「是非」を問うた所、返ってきたのは驚くべきき答えだった。
「私は、まだ自治体の接種を1回受けただけで、12歳にならない子供はそもそも打てない。高齢者はワクチン接種も早く、すでに2回打ったという方も多く、外出する人が増えているというんです。ワクチンを打てば、コロナにかからないから安全なのだと」(中原さん)
もちろん、ワクチンを接種さえしていれば新型コロナウイルスに感染しない、というのは誤情報である。ワクチンを2回接種した場合の有効率をみると、どのワクチンを使用しても100%にはならないし、引き続きマスクや手洗い、3密を避けるなどの予防は必要である。それでも、ワクチン接種していない場合に比べて感染しづらいので当然、他者にうつす危険性が低くなり、もし感染しても重症化しづらいというのがワクチンの「効果」とされる。
「昨年も、公園で子供たちが遊んでいたら、子供は感染源だから公園を使うなと言われたと、パパ友さんから聞きました。子供を優遇しろとか高齢者を優先しろ、ということは思いませんが、余りにも不公平です。子供はほとんど家から出られず、家でゲームしたり本を読んだり、以前はアウトドア派だったのに、引きこもりに近いような生活を強いられているんです」(中原さん)
「通学路に、カラオケ喫茶があって、近くの高齢者の憩いの場になっていました。昨年、そこでクラスターが発生し、店は休業していたようでしたが、夏休み後半頃には、また以前のように高齢のお客さんが集まり始めていました」(細井さん)
細井さんも、ここまでは「仕方がない」と我慢していたが、受け持つクラスの児童が漏らしたある一言に大きなショックを受けた。
「児童が、店の前に居た高齢者から『ワクチンを打ってないから外に出ちゃダメ、学校も休みにして欲しいと先生に言いなさい』と言われたそうなんです。児童はお母さんにも話したそうで、後に児童のお父さんが、お店に抗議されました」(細井さん)
ところが、店の客だけでなく経営者までもが「高齢者はワクチンを打っているから安心」の一点張りで、昼カラオケも飲酒も、店の外での喫煙も、やめる様子はなかったという。
おじいちゃんおばあちゃんだけズルい、と子供たちも思っているのでしょうが、ワクチンを打てない年齢なのが悪い、大人のほうが子供よりえらい、と感じてしまっている児童もいます。地元の方には、大人としてぜひ児童のお手本になるような姿を見せて欲しいと思うのですが、そうした高齢者の方を見ていれば、先生たちが言っていることの方がおかしいのでは?と考え始めないか、不安で仕方ありません」(細井さん)
大人たちの行動を、大人が考える以上に子供たちはよく観察している。自身だけが楽しければ良い、自身だけが助かれば良いという身勝手すぎる行動を取る大人が増えれば、そうした行動を「是」と考える子供、若者も当然増加するはずだ。
すでに、国民の約半数がワクチンを2回接種済みだと政府は公表した。今後、ワクチン未接種の国民がマイノリティになっていく可能性も高いが、そのとき、事情があってどうしてもワクチンが接種できない人、接種の予約が取れなかったという少数の弱い立場の人たちが、接種済みの人々から攻撃される、という恐れも捨てきれない。