ヌシのいる河 その六十 | 池田独の独り語り

池田独の独り語り

池田独のひとりごとと、小説のブログです。

漫画、小説、ぼそぼそマイペースに呟きます。

時々、文章なんかも書きます。しばしのお付き合いを・・・

 「なあ、腹すかないか?」
いつもの調子で風太が背伸びをした。
 「そういえば・・・そうだね」
奏も言われるまで全く気付かなかった様子だ。
 「鍋。鍋やろうぜ。今日寒いしさ」
 「ごめん風太、うち土鍋とコンロないんだよね・・・」
 「どっか買い物出来る所ないか、俺ひとっ走りして買ってくるよ」
東側の住宅街になら、大きなスーパーがあるけど・・・そう奏が答えると風太は早速立ち上がった。
 「それはそうと・・・奏、お前ここには一人で暮らしてるのか?」
風太の問いに、奏はうなづいた。
 「父さんも実はこの町に住んでるけど、勤務している病院の側に部屋借りているんだ。そのほうが便利だって言ってさ」
ふーんなるほど、と風太は早速出かける支度を始めた。
 「ああ、俺も行くよ風太」
巳築も後を追う。
 「どうせならみんなで行こうよ。そうだ。良かったら今日は泊まっていきなよ。迷惑じゃなかったら」
えっ、と一瞬みんな立ち止まった。
 「いいのか?」
 「うん、だって俺は一人だし別にかまわないよ」
 「そうか」
それなら酒も買えるなあ。風太はにひひと笑った。その笑い方、相変わらずだね、と奏が感心していた。

奏によると、例の木造校舎から左に曲がり、少し走るとそのスーパーがあるそうだ。
風太のワンボックスでさっききた道を逆に走ると、もう日は傾き始めていた。
 「へえ、風太が二児の父かあ。変なの」
 「なんだよそれ、俺は真面目な父親だぞ」
 「すごくいい奥さんなの、風太には勿体無い程」
 「しのぶ、いい奥さんは認めるけど、俺には勿体無いってなんだよ」
 「言葉通りですーだってほんとだもの。ねえ、巳築」
 「はは、子供たちも可愛いしね」
 「へえー。俺も会ってみたいな、風太の奥さんと子ども達」
ちょっと風太が黙りこんでから、再び口を開いた。
 「俺、コンロと鍋、買うからさ。奏んちに置かせてくれないか」
 「え?ああ、いいよ」
 「で、時々これからも使わせてもらえないか。ここに来るからさ」
奏はあっという顔になった。
 「・・・いいよ勿論。その時家族も連れてきなよ」
 「そうさせてもらう。ああーついでに焼酎も置いてっていいか?」
 「かまわないよーもし次来るまでに無くなっていたらごめん」
なんだよお前も焼酎派か、と風太は苦笑した。
 「巳築は一人?確か東京だったね」
 「うん。こっちに来ることなんてある?」
 「実は時々。ほら、本書くとさ、どうしても出版社って首都圏だからね、あるのは」
 「じゃ、その時連絡くれよ。そうでもなきゃあまり会えないだろうし」
 「あー一緒に暮らしてる人とかいないの?」
 「今のところはね。その時はよかったら泊まっていきなよ」
ありがとう、助かるよ。奏は嬉しそうに目を細める。
 「しのぶは?住所実家になっていたけど」
 「・・・うん、実は失業して実家に帰ってきたところなんだ」
 「そうか。でも元気そうだね」
 「元気は元気なんだけど、相変わらず男っけが全くないんだぞー」
 「風太うるさい」
遠足の小学生の様に賑やかで、スーパーまでの道のりはあっという間だった。
 「巳築はビールね。俺と奏は焼酎っと。あ、鍛高譚でいいか奏?それと梅干し」
 「梅干し?」
 「これが旨いんだって。しのぶはチューハイだな?」
 「もう、酒ばっかじゃなくてさ。何鍋にするのよ。肉?魚?」
 「奏は何がいいの?奏に合わせるよ」
 「俺は魚介だなあ」
 「じゃ魚ね。それでいい?風太」
 「俺はなんでもいいよー酒に合えば」
思ったより大きなスーパーで、おそらく近所の人はみんなここで買い物しているのだろう。土曜の午後だというのもあってか、結構な人が来ている。その混雑の中、四人はわいわい騒ぎながら買い物していく。
この何年かで友人たちも家庭を持つ人が増えて、こんな風に賑やかに買い出し、なんて学生の頃以来かな、としのぶは思った。
自分逹は変わらないのではなく、成長していないのだったりして。
でも、奏の笑顔を見れば、これでいいのだなと、しのぶは納得した。